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第四章・8
そうだった。
世界各国が非核化を叫ぶ中、年明けてすぐに地下核実験を行った。
その後、それに抗議するという形でアポジャトゥーラを旗印に、多くの国々がフォルツァの治める国への食糧輸出を一部ストップしてしまったのだ。
強大な軍事国家を作り上げるため、第一次産業をおろそかにしてきたフォルツァ。
そのしっぺ返しのひとつが、今まさに降りかかって来ていた。
「おのれアポジャトゥーラ! 余に歯向かうとは……。そして、パッサカリアをかくまうとは!」
「陛下、ここでパッサカリア様は関係ないのでは」
「いや、あながち無関係とはいえん」
「は?」
不敵な微笑みのフォルツァ。
一体何を考えているのやら、と侍従は嫌な予感に襲われていた。
案の定予感は的中し、フォルツァは農林水産大臣および官僚を前にパッサカリア奪還作戦を命じた。
「パッサカリアの血統からは、代々植物を繁茂させる魔術を持つ者を輩出している。彼の小さな国が、あれほど豊かに潤っているのもそのおかげなのだ」
一年中緑に覆われ、美しい花々の咲き誇るアラルガンド王国。
海に面し、塩害に幾度となく見舞われながら、植物たちを豊かにはぐくんできたパッサカリアの国。
バラ園をあそこまで見事に立ち直らせたのは、まさにパッサカリアの持つその魔術の成せる業。
彼をこのブラヴラへ連れ戻し、憔悴しきった穀倉地帯を甦らせるのだ。
一見なるほど、と思わせておきながら、その実パッサカリア様を意のままにしたいだけなのだ、と侍従は額を押さえた。
お気の毒なパッサカリア様。
だが、絶対君主のフォルツァの前では、誰も異を唱えることはできなかった。
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