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第四章・13
(ジンガラ!)
そんなでたらめを。
私は歌など歌えない、とこっそり話すパッサカリアに、ジンガラは素知らぬ顔だ。
(時々、お風呂で歌ってるでしょ~? 聴いちゃってるんだから)
ひそひそと話す二人に、マルカートは仕方がないなという顔をして、ジンガラにクリップで止めた新譜の企画書を渡した。
ぱらぱらとめくっていたジンガラは、次第に真剣な顔つきに変わって行った。
しまいには、ばさりと企画書をテーブルに投げ出し、不機嫌そうに逆立てた髪をガリガリと掻きむしった。
「ちょっと、俺様のイメージと違うんじゃあないの?」
「しかし、この曲の企画を立てたのはシャルフだぞ」
「ええッ!?」
そこへちょうど、シャルフが息せき切って部屋へ駆け込んできた。
手を合わせて遅刻を詫びる彼に、ジンガラは新企画の不満をぶちまけた。
「やい! 俺様が、こんな甘ったるい歌なんか歌えるか!」
「え? あ、いやいやいや」
シャルフは手にしたペットボトルの水を一口飲むと、ジンガラに噛んで含ませるように話して聞かせた。
「そのジンちゃんが歌う、ってところに意外性があって面白いんだから。それにね、人類代表として言わせてもらうとね、今は激熱で全てを破壊したい衝動より、穏やかに癒されたい気持ちの方が大きいんだよね」
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