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第四章・14
確かにこのところ、世界規模で不安が高まる傾向にある。
干ばつや洪水、地震、台風や噴火。
天災が各国を襲い、人々はTVやネットを通じてそれを我が事のように恐れている。
次は、自分のささやかな幸せが壊される番かもしれないのだ。
「そんな時こそ、安らぎを与えてくれる愛の曲をさ。大丈夫、ジンちゃんなら歌いこなせるって!」
むむ~、とジンガラは投げ出した書類をもう一度手にした。
シャルフの言う事は解かる。
世相を反映した曲が、受け入れられやすいことも確かだ。
「ちょうどいいだろう。そこのご自慢の情人に、一緒に歌ってもらえ」
「パッサカリアちゃんと!?」
目をぱちくりさせて、ジンガラは改めてパッサカリアを見た。
でまかせで言った事だが、確かにパッサカリアが一緒に歌ってくれるのなら、やりがいがある。
全人類を、歌を通じて愛で救うなんておこがましいことはできないが、ここにいる一人の愛しい人だけは、確かに幸せにしてやりたいのだ。
「パッサカリア、やってくれる?」
彼を見るジンガラの眼は真剣だ。
ジンガラは、本気で言っているのだ。
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