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第四章・16
「何かさ、この木最近やたら大きくなってない?」
ビルの地下にある、完全防音のスタジオ。
あまりに殺風景なので、レンタルのドラセナの木が置いてある。
日の全く差さない場所に置くので、弱りかけた頃を見計らって新しいものと交換するのだが、そのドラセナが弱るどころか、ぐんぐん伸びている気がするのだ。
「あん? 気のせいだろ」
取り合わないジンガラに、シャルフは反論した。
「いや、絶対伸びてるって。こないだまで、俺の胸の高さまでしかなかったもん」
それが今や、シャルフの背丈を超えるまでに成長している。
葉は日が当たらないにもかかわらず青々と茂り、あろうことかつぼみまでつけている。
滅多に花を咲かせることのないドラセナが、だ。
「ま、悪いことじゃあないからイイんじゃないの? パッサカリア、次Fからお願い」
「解かった」
楽譜の、Fと記されたフレーズからパッサカリアは歌いだす。
Fはパッサカリアのソロ。そして次のGから、ジンガラとハモるのだ。
パッサカリアの歌声を聴きながら、まだドラセナが気になるシャルフは木を見ていた。
すると、つぼみが見る間にふくらみ、白い花をこぼれんばかりに咲かせ始めたのだ。
「あ! あぁ、あ! マジかよ!? ね、見て見て! 花が咲いたぜ!?」
シャルフの声に、やれやれとジンガラはドラセナに目をやった。
そして、仰天した。
確かに目の前で、つぼみが次々と花開いてゆくのだ。
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