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第四章・18

 マルカートの実験によると、水を吸わせて一週間は置かないと発芽しない硬い豆が、パッサカリアの歌声の入ったディスクを聴かせるとたったの一晩で芽を出す、とのことだった。  生の歌声ではないので、ある程度伸びると人の手を入れねば育たないが、それでも発芽率ほぼ100パーセント、そしてしっかりした苗にまで育つという保証付きのCDだ。  ゴツいロックばかり歌ってきたジンガラの初めてのポップスに売上の不安を抱いていた各社は、その物珍しさに賭けてこぞって入荷の予約を入れてきた。  パッサカリアのたっての願いで、その奇跡の歌声の主の顔は出さない、ということになったが、それはそれでまた神秘的な話題を呼び、生産が予約に追いつかないらしいとまで囁かれるようになった。 「ジンガラ、私は何だか怖い」 「どうして? 前評判はパッサカリアのおかげで上々だよ? きっと売れるって。大成功だって」  そうじゃなくて、とパッサカリアはベッドの中でジンガラにきつく抱きすがった。 「私の国を興した伝説上の人物には、荒野だった土地を一夜で緑で覆ったという逸話が残っているんだ」 「あ、それってパッサカリアちゃんのご先祖様かもね」 「うん。その一族の血筋が代々、王として国を治めてきたんだけどね。今回のディスクに私の歌が入っているということをフォルツァが知ったら、私を血眼になって取り戻そうとするんじゃないか、って」 「そっか」

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