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第四章・20
発売とともに、CDは順調に売れた。
この曲を聴かせると植物がよく育つらしい、という一部ではうさんくさいと叩かれていた評判も、すぐになりを潜めた。
本当に、噂通りだったからだ。
パッサカリアの歌声は国中の緑を茂らせ、それに寄り添う人々の心を慰めた。
増版、また増版とたちまちのうちにミリオンセラーにのし上がり、ライブをぜひ開いてほしい、との願いも表れ始めた。
謎に包まれた、ジンガラとデュエットをしている人物。
この声は男性だ、いや女性だ。
ジンガラの、本物の恋人らしい。
いや海外の著名なアーティストが雇われたのだ。
などと、憶測が絶えず飛び交った。
音楽はネット上で海外にも流出し、ついにパッサカリアが恐れていた事態が起きた。
「この勢いで、もう一曲出しちゃおうか」
「二匹目のドジョウは当たらないよ」
そんなことを言いながらマンションへ戻ってみると、ドアの前に初老の男性が立っていた。
「あなたは……!」
パッサカリアは、蒼白になった。
あの人には、見覚えがある。
確か、フォルツァ国王の侍従!
「先だっては、大変失礼いたしました」
侍従は、まず誘拐未遂事件を詫びた。
穏やかな話しぶりをみると、どうやら力づくでパッサカリアを奪いに来たわけではないらしい。
それでも細心の注意を払いながら、ジンガラは侍従の話を聞いた。
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