95 / 104

第四章・20

 発売とともに、CDは順調に売れた。  この曲を聴かせると植物がよく育つらしい、という一部ではうさんくさいと叩かれていた評判も、すぐになりを潜めた。  本当に、噂通りだったからだ。  パッサカリアの歌声は国中の緑を茂らせ、それに寄り添う人々の心を慰めた。  増版、また増版とたちまちのうちにミリオンセラーにのし上がり、ライブをぜひ開いてほしい、との願いも表れ始めた。  謎に包まれた、ジンガラとデュエットをしている人物。  この声は男性だ、いや女性だ。  ジンガラの、本物の恋人らしい。  いや海外の著名なアーティストが雇われたのだ。  などと、憶測が絶えず飛び交った。  音楽はネット上で海外にも流出し、ついにパッサカリアが恐れていた事態が起きた。 「この勢いで、もう一曲出しちゃおうか」 「二匹目のドジョウは当たらないよ」  そんなことを言いながらマンションへ戻ってみると、ドアの前に初老の男性が立っていた。 「あなたは……!」  パッサカリアは、蒼白になった。  あの人には、見覚えがある。  確か、フォルツァ国王の侍従! 「先だっては、大変失礼いたしました」  侍従は、まず誘拐未遂事件を詫びた。  穏やかな話しぶりをみると、どうやら力づくでパッサカリアを奪いに来たわけではないらしい。  それでも細心の注意を払いながら、ジンガラは侍従の話を聞いた。

ともだちにシェアしよう!