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第二章・21
「ぜひ、我が国の痩せ衰えた穀倉地帯を甦らせるために、パッサカリア様にお越し願いたいのです」
聞けば、今回の訪問はフォルツァ国王には秘密だということ。
王も知らぬ間に、こっそりパッサカリアに入国してもらい、ただ歌っていただくだけだと侍従は力説した。
だがしかし。
「申し訳ございませんが、私はブラヴラ王国へは行きたくありません」
莫大な額のギャラを提示されても、パッサカリアは首を横に振るだけだった。
「フォルツァ様の数々の非礼は重ねてお詫び申し上げます。ですが、罪もない国民が飢えて行くのを、あなた様は決して見過ごしにはなさらぬはず!」
「う……」
確かに、フォルツァにさえ見つからなければ問題ない。
今回、侍従がたった一人でここに現れた誠意も解かる。
彼の言うとおり、困っている人々を放っておくことはできない。
パッサカリアの揺れた気持ちに、ジンガラはすぐに気付いた。
これも、人の上に立つ階層に生まれた者の血が成せる業に違いない。
「パッサカリア、ブラヴラの大勢の人を思う気持ちは解からないでもないけどさ、俺の気持ちは? もしかすると、またフォルツァの奴に捕まっちゃうかもしんないって心配する、俺の気持ちは考えてくれないの?」
「ジンガラ」
ジンガラは、ずいとパッサカリアの前に出た。
広い背中。
彼の大きな体が、いつもよりずっとずっと大きく見える。
背中をすごく、広く感じる。
まさに、身を挺して私を守ってくれているんだ。
そう思うと、その背中がひどく頼もしく思えた。
いつもふざけてばかりいるジンガラ。でも、いざと言う時は、本気になって私をかばってくれるのだ。
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