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第四章・22
「悪いけどさ、パッサカリアの気分が乗らねえならしょうがないから。それより」
そう言うと、ジンガラは肩から下げたバッグに手を入れた。
侍従は、緊張した面持ちで、こちらもまた懐に手を入れた。
ジンガラが、銃を取り出そうとしていると思ったのだ。
そういう事ならこちらにも備えはある。万が一の時には、すぐに護衛が投入される手筈にもなっている。
しかし、ジンガラが取り出したのは、銃でもなければナイフでもなかった。
手にしたものは、一枚のディスク。
今回出した、くだんの最新CDだ。
「買ってくんない? これ。こいつだけでも充分効果があるって立証済み」
「それは本当ですか!?」
「ホントホント。これをあんたの国の畑でガンガン鳴らしてさ、小麦でも野菜でも好きなだけ育ててやってよ」
「なるほど!」
侍従は手をポンと打つと、お騒がせしましたと去って行った。
こつこつこつ、とその足音が遠くなるにしたがって、パッサカリアはジンガラの背中にすがり、ずるずると床にしゃがみこんでしまった。
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