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【3】春日が好き過ぎて辛い

中等部卒業と同時に「かなやま壮」に入寮し直した春日の引っ越しを手伝った時だった。 兄崎は段ボール箱が散乱する新しい部屋で全く料理ができないくせに、手伝いに来た兄崎をもてなそうとした春日にときめいた。 春日の手料理を初めて食べたのだ。 肉とありあわせの野菜を使った炒め物は適当に切ったのか単に不器用なのか、はたまた包丁の切れ味が悪かったのか。 幾つかの肉や野菜が繋がっていた。 不味くはないけど旨くもない。 ソースだけで味付けた塩気ばかり目立つ単純な味。 どうせならバーベキューソースでも使用してくれた方がまだ良かった。 炊き上がった白米は水の量が多すぎたのだろう柔らかすぎて、べちゃりとしている。 粥一歩手前の仕上がりだ。 一番うまいのはペットボトルの緑茶という皮肉な食事だったが、春日が兄崎の為に作ったと言う事実に素直に感動した。 中等部の寮には食堂はあったが厨房が無く、配食サービスの弁当を受け取り食べていたから茶碗と皿に盛られた食事がやたら旨そうに見えた。 見栄えが良い訳ではないのに思わず見とれた位だ。 兄崎の為に白米を茶碗に盛り付け、「頑張ってはみたんだけど、味変じゃねぇ?…米柔らかすぎるよな…。お粥一歩手前じゃねぇかこれは。」と自分からわざわざ料理の味を伺う春日に対し、不意に感情の波が押し寄せた。 胸にこみ上げる熱量に息苦しさを覚える。 新婚さんかこのシチュエーションは。 おずおずと兄崎を見る視線と言ったら。 新婚生活一日目夫と初めて食を共にする新妻か。 あぁ堪らん。 そして思わず言葉に出してしまったのだ。 「好きだ」 こんな風に、ポロリと零れる様にうっかり秘密を漏らすような告白など論外だった。 失敗したと思ったが口に出したものは仕方がない。 これは春日が可愛すぎた所為でぽろりをしてしまったのだ。 やるな春日。 脳内で繰り返したどの告白シーンとも違った。ダサくてどうしようもないシチュエーションでの告白。心の準備ができていないのに、不意に飛び出した言葉のせいだ。 「あぁん?お前こういう味好きなのか?俺としてはちょっと淡白すぎたかなって思ったんだけどよ。」 恰好良くスマートに告白するはずだった。 やり直したい。 春日の瞳が不思議そうに兄崎を見つめる。 黄味が強い薄茶の瞳はビー玉を思わせる。 何て綺麗な瞳なんだろうか。 おい、首を傾げるな。 可愛いなこの野郎。 「お前の舌は結構大雑把なんだな。」 だめだ。 誤魔化すなんてできない。 繕うことなどできる筈がない。 やり直す?どうやって? この言葉を無かったことにするのか? 駄目だ。嘘でも否定などしたくは無い。

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