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【10】俺に構えと言いたい
――空気を読め。お前得意だろうが。
畜生。
春日は自分の事ばかりだ。
退屈だ。こうして一緒に過ごすのだから、もっと喋りしたい。
兄崎は これ見よがしにため息をついた。
しかし、春日は漫画に夢中だ。ちらりと見えた頁に兄崎は思わず「ぶほっ!!」っと噴出した。
セーラー服のやたら幼い顔したツルペタ美少女二人が、スカートを巻くりあげ互いの性器を一つの性具で繋ぎ擦り合わせているという何とも破廉恥な内容であった。
なんていう変態漫画を読んでいるんだこいつ。
しかも、淡々とした表情で。
信じられない。(鼻の下を伸ばされていたら、それはそれで逆にどん引きだが)
これ、いきなり1番のエロ三昧にいっても良いのではないのでしょうか。
兄崎は一瞬血迷いそうになる。
いやいや、そうではなくて。
「…さっきまでバトルシーンがあったような気が…」
春日お前そのエロい本に夢中なのか。
俺よりもその紙上のエロをとるのか。
兄崎は眩暈がしてきた。
「あぁ、さっきのは五十嵐の作品。二か月後に続きが出るらしい。これは番外編。 脇役の女の子の恋物語だ。」
「恋物語?」
恋物語がなぜそんな全身汁塗れの少女なのだ。
粘着音と喘ぎの文字がページを埋め尽くしている。
どうみてもエロ本だ。
あんぐりと口をあけたまま兄崎は春日の顔を伺う。
グロテスクとも言える猥褻なシ ーンでも顔色一つ変えぬ涼しげな表情だ。
「…五十嵐そんなの書いてんのか。」
五十嵐こと、五十嵐 皐月は男子中等科の生徒会執行部の後輩だった。
春日の下で良く事務作業の補助職をしていた。
事務補助とはいえ、もの凄い集中力の持ち主と記憶している。
春日と同じで何時間も飽きることなく、黙々と書類を捌いている姿が印象的だった。
真面目な性格が評価されて、会計が是非後任と欲しがっていたが本人は数字が嫌いなので書記を希望していたはずだ。
控えめな笑い方をする、真面目で大人しそうな印象の子だった。
あの五十嵐少年にこんな変態な性癖があるとは。
「所がどっこい、この番外編は妹の作品らしいぜ。五十嵐よりエロいの描きやがる。」
「…妹ぉ!!?マジかよ」
五十嵐に兄妹が居たと初めて知ったが、さらにその妹が兄崎が目を覆いたくなるようなエグイエロ本を書いていると聞いて二重の衝撃を受ける。
「五十嵐の絵はもう少し線が太くてシャープな印象だ。妹のは線が細くて華やかな印象を受けるな。男も女も睫がバサバサだ。五十嵐の兄貴は小説担当だな。バッドエンドが6割。読むと気分が重くなる。」
「一番下の妹の作品が一番エロいって…どういう意味だ。」
視線は相変わらず猥褻な頁に合わせたまま照れも恥じらいもない声で春日はしゃべる。
「五十嵐のはストーリー上必要だからという印象があるけど、妹のは何つーか、エロ目的で書いてる節があるな。グロいけど女の方がこういうのは得意なのかもしれん。個人的には五十嵐兄が書いた小説がダントツだ。GLやBLというやつも中々面白かった。今度五十嵐に頼んで、あいつの兄貴の書いた小説の中にハッピーエンドな物が無いか聞いてみようか。」
「ちょいまて、10をそう超えてない餓鬼が何で発禁物書いてんだよ。可笑しいぞ?五十嵐はいま中二だろ?妹って幾つよ?」
「妹は今年中一になったはずだ。ここの中等科に進学したって聞いたぞ。小学生時代からエロ本を好んで読んでたんだとさ。まぁ、細かい事を言うな。面白けりゃ良いんだよ。」
次頁では、先程まで交わっていた少女がバッドで殴り殺されていた。
どういう話だ。
五十嵐妹よ。
血しぶきだけでなく、脳味噌の描写まで詳細に描かれている。
猟奇的過ぎるだろうが。
「読みたければ読めば?抜けるぞこれ」
「…エロいのは好きだけどグロが混じると駄目なんだよ。」
ちなみに、漫画だろうが動画だろうが愛のかけらもない性暴力物も苦手だ。
「あぁそう。」
落ちる沈黙。
長時間の沈黙が苦痛ではないのは相手が特別だからか、または心底どうでも良い他人のどちらかだ…と兄崎は考えている。
兄崎にとっての春日は当然前者に該当する。
会話が無くても苦痛は感じない。
苦痛ではないが、春日にとって常に一番でありたいと言うのが兄崎の望みだ。
一緒に居るときは構って欲しい。そんな漫画より俺に構えと言いたい。
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