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【11】キスして良い?
一緒に潜り込んだ炬燵で7冊目の漫画を手に取る春日を見る。
傍らに詰まれた漫画は11冊から10冊に減る。
全てを読み終えるまで俺の相手はしないつもりかと兄崎は焦りすら感じる。
日が暮れて寮の門限が来てしまうではないか。
兄崎はごろりと仰向けに寝転がる。
「ねぇ、」
パラリと髪の毛が目に掛かるのを、春日がうるさそうに掻き上げる。
――少し髪の毛伸びたな…。
ページを捲り顔を少し傾けると、耳にかけた髪の毛がまた零れ落ちる。
指が耳をなぞる様にして頬に落ちる髪の毛を押さえた。
兄崎は手を伸ばし、柔らかい髪をすくうと髪を抑えている春日の指と重なり、薄茶の瞳が初めて兄崎を認める。
「退屈」
「…ゲームしても良いぞ」
おいおい、デートだろう?
二人で一つの事をしようじゃないか。
この展開をかえる良い機会かもしれない。
「お家デート飽きたから、出かけようか。」
「却下」
「ですよねー。」
予想は出来ていたが、残念だ。
兄崎は、頬をラグに擦りつけ斜め下から春日の伏せた瞳を見つめる。
睫に縁取られた瞳は光の加減で金色に煌めいた。
ふと、中等科にいた時秋の日差しの中で初めて口付けた時の事を思い出した。
奇妙なまでの感動を覚えた瞬間だ。
「春日」
無視される。
「キスして良い?」
「これ読み終えたらな。だから邪魔するな。」
「マジか!!!!」
春日は唇だけで笑い、頷いた。
もう、退屈などどうでも良い気分だ。
兄崎は顔を両手で覆いうつぶせたまま両足をバタつかせる。
「春日急いで読め!!つーか、今16時過ぎだぜ?」
「あぁ、門限過ぎる前に帰れな。」
「おまっ!!!キスは!?」
「読み終えたらな。今、良い所なんだよ」
「良い所?」
『あひぃいい、おマ×コ良いのぉおお。しゅごいのおおお』
尻の穴と膣に同時に男性器を挿入され、激しいピストンに白目をむきながら唇は喜びの形をした少女の絵がでかでかと描かれている。
五十嵐妹、お前いい加減にしろよ。
「…引くわそれ」
「俺は結構好きだな。」
伏字を使うなら修正をもっとでかくしろよ。
局部の修正はごく小さい。中学生になったばかりの少女が書いたものとは思えない代物だ。いや、少女と言うよりもはや痴女の領域だろう。
しかし、これが春日お気に入りの作品になるとは。
少し悔しい。
「春日ぁ」
「煩ぇ」
こんなそっけない男と付き合えるのは自分くらいだと思う 。
「折角一緒に居るのに、漫画ばかりで詰まんないよ。デートしたい。やっぱどこか行こうよ。その辺散歩するだけでも良いからさぁ。」
春日は寝転がったまま兄崎を見つめた。
「お前、可愛いな。」
「うわっ」
一瞬にしてかっと顔が熱くなる。
心臓が破裂するかと思った。
やたら男臭い表情。
何時もより、凛々しくて思わず抱いてと言いそうになった。
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