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秘密

「ただい…ま。」 「あれ?今夜は飲み会だから遅くなるんじゃなかったんですか?」 「あぁ、そう…なんだけど…ちょっと…寝るわ…」 そう言って寝室に入ろうとするあなたが僕の前を通り過ぎようとした時、何か違和感を感じた。 ほんの些細な、自分でもよくわからない違和感。 「何か、変ですね。」 言葉に出してみる。 心当たりがあれば、何かしらの反応が返ってくるだろう。 しかし、その反応は思っていた、いや思いもかけないほどの反応だった。 「ちが…うんだ。これは違うんだ。そうだって知らなか…ったから、本当に、違うんだ。」 そう言ってその場で泣き崩れた。 まったく意味が分からないが、思っていた以上に深刻な事がこの人に起きたらしい。 「ゆっくり息を吸って、吐いて。大丈夫ですか?」 背中に手を当てると、まるで熱があるかのように熱い。 「体温計、持ってきます。」 そう言って体温計の置いてあるリビングに向かおうとする僕を貴方の手が引き留めた。 「風邪じゃ、ない。」 しかし、その息は荒く、顔もよく見ると汗が浮かび火照っている。 袖から出ている腕もうっすら汗ばんでいるのがわかる。 「こんなに症状が出ているのに、風邪じゃないわけないでしょ? ともかく熱を測って下さい。」 そう言って再びリビングに向かおうとする僕の腕を引っ張ると、そのまま自分の下半身に当てた。 「え?ちょっと何…っ⁈」 服の上からでもそれが体のどこよりも熱を持ち、どくどくと脈打っているのがわかる。 「どうしたんですか、これ。」 「分からない…んだ。店に行って、注文して…ちょっとトイレに行って…それで戻ってきて飲んだら、なんか体中が熱くなって。」 そう説明している間にも、汗が滴り落ち、肩が上下に揺れるほど息が荒くなっていく。 多分そうじゃないかという推理はできるが、なぜそういう事をされたのか…。 「どなたと飲みに行かれたんですか?」 尋ねると、その顔が曇る。 「仕事だから…断り切れ…なかっ…たんだ。」 なんとなくアピールしてくる男がいると言っていた。ただ、それをもって男が好きとか、そういうのは分からないから、気を付けてはおく。そうも言っていた。 僕の顔を見ていたあなたが頷いた。 「あの人と二人でですか?」 「すまない。行って、みたら、そう…なっていた。」 ふっと視界から顔が消えた。 「え⁈」 驚いて下を見ると床に倒れ込んでいる。 「大丈夫ですか?」 そう言って肩を抱きかかえるようにして立たせると、寝室に入り、ベッドに寝かせた。 「ねぇ、これってアレ、だよね?」 「多分、そうだと思います。」 「おかしいって…思って…彼が少し席を…離れたから…逃げて…来た。」 そう言って少し微笑んだが、またすぐに眉間にしわが寄る。 「辛い…ですよね?」 言葉にうなずく。 「僕は今夜、リビングで寝ましょうか?」 あなたはたとえ辛くても快楽に溺れる姿を僕にさえ見せる人ではない。 今の状況で、僕が手を出してしまったら、貴方はそれに苦しみこの世から消えてしまうかもしれない。 それでもあなたが性に溺れていく姿を見たいという欲求がふつふつと湧き出るのを必死で抑える。 「私を縛ってくれないか?」 「は?」 唐突な申し出に答えに窮した。 「お前が、私を縛って…くれれば…。」 言いながら火照った顔がさらに火照り、それを想像したのか腰が揺れる。 「縛ったあなたを、どうするんですか?」 意地悪な質問をする。 黙ったまま僕を睨むあなたが、ん!と両手を差し出した。 じっとその手を見ていると、再びグイっと僕の方に両手を差し出して、 「早く縛れ!その後の事はお前が勝手にすればいい。もう…限界だ。」 そう言って、顔を僕からそむけた。 あなたのネクタイを首から外すと、差し出された手首に巻き付けぎゅっと縛る。 それだけで、肩から背中がびくびくと反応する。 そしてハンカチを取り出そうとスラックスのポケットに手を差し入れると、そこが湿っているのがわかった。 取り出したハンカチで目を覆う。 「やだっ!」 そう言って顔を横に振るが、すでに手を縛られた体ではどうすることもできない。 「目隠ししていいとは、言ってない。」 「手を縛った後は僕の勝手にしていいって、言ったじゃないですか?」 「うっ…。」 言葉を飲み込んだ唇に僕の唇を重ねる。 口が軽く開き、僕の舌を受け入れる準備をする。 そこにいきなりぐっと指を突っ込んだ。 わけのわからない状況に足をばたつかせるが、僕の指が舌をとらえてその口中を嬲り出すと、足は動きを止め、今度は腿をこすり合わせ始めた。 その腿の間に反対の手を差し入れ、その中心に軽く手を添える。 僕の手をぐいぐいっと自身に押し付けるようにして腿のこすり合わせが激しく強くなっていく。 あなたの舌を嬲っていた僕の指は、今は逆にあなたの舌が嬲っている。 あなたのシャツの上から胸の突起に歯を立てると、僕の指をかみ切るかのように歯を立て、僕の手をぐぅっと強く自身に押し付けて果てた。 汗だくの髪を掻き上げると、 「も…っと…」 そう言って再び腿をこすり合わせる。 その足を開かせると、スラックスに染みができていた。 その染みの臭いを嗅ぐようにして鼻を近づけると、貴方が嫌がるように腰をよじる。 「ダメですよ。」 そう言って腰を両手でつかむと、スラックスの上から熱く脈打つあなたを口に含む。 その刺激だけで再び果てたあなたの体液でびしょびしょになったスラックスと下着を脱がせ、体をうつぶせにする。 誘うようにひくついた穴に、スラックスについた体液をぬぐった指を突き刺す。 「あぁ…ん。」 いつもなら出さない嬌声が口から零れ出た。 「もっと、聞かせてください。」 そう言って指を3本突き刺す。 「あ、あーーーーー!」 それだけでまたも果ててしまった。 しかしすぐにあなたはクンっと起き上がり、突き刺した指を奥に飲み込んでいく。 「んあっん!あぁ…ぁぁぁぁぁん!あん、あん、あん、あ…あぁぁぁあぁぁぁぁ!」 僕の指を自分で出し入れして、その刺激で果てるあなたの痴態を見ながら、ごくりと喉が鳴る。 僕は僕自身を取り出すと、あなたの穴にぐっと押し付けた。 あなたの体がびくっと反応して、穴がひくつき、僕を飲み込もうとする。 まるでどちらがされる側なんだろうか?そんな事を考えながら、これから何時間も過ごすであろう穴の中に僕をぐぐっと差し入れた。 「それで、うまくいったのかい?」 次の昼休み、僕は昨日話題に上った男と会っていた。 「えぇ、十二分に。」 にっこりと笑うと、相手もニヤッと頷く。 「それじゃあ、今夜は僕の方を頼むよ。」 そう言って、チョコレートを渡された。 「これをどうやって食べさせるか、あなたの相手はなかなか慎重ですから。」 「来週は僕が彼に食べさせるからさ。」 「昨夜よりも強力なんですか?」 「らしいよ。」 「じゃあ、色々と頑張ってみます。しかし、僕と貴方が結託してるなんて知ったら、大変なことになるでしょうね。」 「あぁ、まずいだろうね…でも、やめられないよな。」 「ですよね。」 そう言ってじゃあと別れると、来週の彼の乱れ具合を想像しながら、これからどうやってこのチョコをあいつに食べさせるかを考え始めた。

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