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第9話
「日向?」
「あ、圭人」
朝、校庭で手を引かれ振り返ると、圭人がいた。圭人は驚いたような、戸惑ったような妙な顔をしていた。
「おまっ、…今日休むと思ってた…。メンタル強いな…。」
「いや、ブレーカー入れないとだったし…」
「は?ブレーカー?」
切ったままだと、まずいだろう。この先この仕事を辞めるとしても、やっている限りきちんとしておきたかった。
「まぁ、そんな事はいいんだが、あの後大丈夫だったか?もしかして家に居たくなくて、学校きた?とか…。」
「は?何故に…いや、大丈夫だったけど…」
「…そっか。日向、ちょっとこい。」
「あぁ…」
圭人は俺を連れて、保健室に向かった。
「これ。念のため。Ω用のアフターピル。あと、バースについての資料。Ωについての説明も載ってるからもってけ。」
「…ありがとう。」
アフターピルか…。やっぱりΩ用のものがあるんだな。有難いが持ち歩くのが虚しい…。そう思ってぼんやりと手元の薬を見つめた。いやいや、
「ははっ、圭人、なんか親切だな!昨日は変なとこ見せてごめんな…。」
「はははっ、日向、顔真っ青だったからな〜。」
深刻な雰囲気にすると何故か恥ずかしい。俺が笑うと、圭人も一緒に笑ってくれた。
「はははっ」
「はは…」
「…」
しかしやはり、気まずい。圭人もそうなのか、室内には微妙な空気が流れた。
「あー、あと日向、多分まだこの学校に暫く居るんだろう?」
「…どうだろう。玲次がなる早で退職出来る様に掛け合ってくれてるから…。」
「…。なら、まだ暫くここに居ることになるかもな。」
「え、それはどういう……ちょ、わっ。」
圭人は机を漁りながら呟くと、引き出しから取り出した眼鏡を俺にかけた。そして、俺の前髪を斜めに分けたりといじりだした。眼鏡はどがキツい。俺の視力は2.0だ。
「まぁ、そのままだと限度あるな。日向、俺の友達に美容師してるやついるから、そいつに話通しとく。今日の仕事上がりに髪切って、色も染めてこい。仕事あるしあまり奇抜な色は出来ないけど、そこはあっちに相談しとくから多分いい具合に「え、なに?どうした?」」
「……いや、変装しろよ。そのままだと、見つけてくださいって言ってるようなもんだろ。」
圭人が呆れたように言う。
「あ、あぁ…そっか。」
そっか…。あっちの世界では、皆匂いで個体判別するから、変装は意味を為さない。だからその思考はなかった。しかしこっちの世界は匂いとか嗅ぎ分けられない様だし、変装は1番簡単で基本的な策だよな。
俺は礼を言い、保健室の出口に向かった。
「日向」
「?」
すると、圭人に呼び止めらた。
「あー、もし、なんかあったら、学校…てか……家…に居たくなくなったら、俺に連絡して?まぁ、なんてか……俺はお前に変な事、絶対しないし…何であれ、…ま、そん時は助ける。」
「…おう。ありがとう。」
いや、ぶっちゃけ、意味不明。歯切れの悪い圭人の説明は的を得ない。家に居れなくなったらってどゆこと?玲次の家にって事?でも、圭人なりにこちらを気遣ってくれているのは伝わるので、頷いてしまった。
圭人は俺の反応に頷き、気まずげに頭をかきながら保健室に引っ込んだ。
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おいおいおい……。まじかい!
俺は、帰宅後に圭人に貰ったにバースの資料を読み震えた。
Ωが子供を宿せるという点はやはり間違いなかった。てか世間の目的に、Ωは冷遇傾向にあるようだ。俺はただでさえ学校に味方がいない。今後は自分のバースは隠して行こう…。
「…匂い…。」
『Ωは独特のフェロモン臭があり、αは敏感にその匂いを嗅ぎ分ける。』
煌が匂いがどうとか言っていた。あれが俺のΩフェロモンだとすると、あいつはαなのだろうか…。いや、あいつ、育ち良いわりに大食いで食い意地はってるから、俺が食べた食べ物の匂い嗅ぎつけたか?でも昨日俺が食ったのは魚で、煌は完全に肉派だからな。…はぁ、もう、頭おかしい煌の事は理解出来ん。
「ただいま。」
そうこう悩んでいると、玲次が帰ってきた。
「お帰りー。」
「おぉ。びっくりした。日向、髪型かなり変えたな。」
玲次は表情が少ないが、それでも今は俺をみて目を丸くした。うん。この変装、中々成功だな。
「うん。変装。明日からこの眼鏡も付けてく。」
「いいな。」
俺が買ってきた伊達眼鏡をかけて見せると、玲次が笑った。まぁ、これ、俺に似合わんからな。でも仕方ない。
「玲次、俺の退職の話、どんな感じだ?」
俺は冷蔵庫から飲み物を取り出す玲次に尋ねた。直ぐに何か回答があるかと思ったが、まだ返事がなくて、実はずっと気になっていた。煌達にバレてしまったし、本当は直ぐにでもあの学校から離れたい。
「あぁ…」
玲次がごくりとお茶を飲む。
「もう暫く、後任者が見つかるまではいて欲しいと言われてしまった。」
玲次が申し訳なさそうな顔をしてそう言った。
「そう…か。…そうだよな…。」
そうなのか。……そうか。そうなの?
「……日向、なに読んでたんだ?」
玲次は考える俺をチラリと見た後、俺がソファに置いていたバースの資料を見つけて聞いてくる。
「あぁ、圭人にバースの資料貰って。」
「…ふーん」
玲次はソファに近づき、その資料を手にソファへ腰掛けた。俺も追ってソファに行き、玲次の斜め横に腰掛ける。
「ははっ、俺のΩって、なんか微妙だな…。」
「そう?いいと思うけど。俺にしたら最高。」
「えー…」
男でΩって、微妙な気がするけどな。玲次はパラリと資料をめくる。そうだ。
「玲次は、バース何?」
「α」
「あぁー、そんな感じ…。」
なんか、羨ましい。
それならやっぱ、煌もαかな。玲次がαだと、そんな気がしてくる。柊も冬夜も、なんかαっぽいな。あっちの世界のポジションに置き換えると、大体そんな感じだろうけど…。
「なら、玲次、俺のΩの匂いとか、する?」
「…」
パサッ
玲次が資料から顔を上げ、こちらを見た。
「?………、っ!!」
そして徐に俺の首筋に手をかけ、俺を引き寄せたかと思うと、自分の鼻を俺の首筋に当てた。
「んんっ、ふっ……っっ!」
玲次の吐息が首筋にあたり、ふるりと震えた。あ、やば。なんか、体の奥がモゾモゾして、変な声出た…。顔が赤くなる。努めて平静を装うが、顔が熱い。静まれ、静まれ…。
「する。」
俺が固まっていると、俺の首筋から顔を上げた玲次がニヤリと笑って言った。
「…玲次、近い。」
「あぁ、すまん。」
俺はやんわりと玲次を押し返した。しかし、気のせいか玲次は中々距離を開けてくれない。
「…。ふっ、ちょっと日向の匂い強くなった。興奮した?お詫びに抜いてやろうか?」
「っ、ほんとっ、やめろ。」
なんか伸ばしてきた玲次の手を掴み、俺は今度は強めに玲次を押し返す。流石に玲次も、笑いながらだが俺から体を離した。
そうか…興奮したりすると匂い強くなるのか。
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