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第11話

※三人称視点 「そこにいるの?クロ??」 物陰に隠れていた日向は動揺した。つい、目の前の出来事が意外だったが為に長居してしまった。柊は掴んでいた相手の襟首を放り出し、鼻をふんふん言わせて日向のいる廊下へ近寄る。 (まさか……鼻は効かないはず…。いや、煌も馬鹿力は相変わらずだったから、多少は能力が引き継がれるのか…?) 日向は隠れていた渡り廊下の入り口脇から、そろりとそろりと四つん這いで廊下の奥へ引っ込んだ。丁度廊下の脇に腰の高さ程度のロッカーがあったので、そこへするりと身を隠す。 カタン… 柊は日向のいる廊下へ足を踏み入れ、迷いなく日向へ向かってくる。 (来るなっ、来るなっ…!!) 柊が一歩、一歩と、日向へ近づく。日向は足音で正確に自分へ近寄る柊を感知し危機感を募らせた。 (ダメだ。興奮したら、ダメ…。匂いが強くなる。落ち着け、落ち着け……。) 日向がふと頭上を見ると、窓が開いていた。日向のいる場所が風上だになっている。 (あぁ、もうこれ、匂いだだ漏れ…。柊なら…なんとか、言いくるめて、口止め出来る…か?しかし行為を強要されるか。それが嫌だ…。) ペタっペタっ ここからもう動く事はできない。手詰まりだ。日向は目を閉じ、口を手で塞いだ。俺は息を潜め、身を縮める。 すんっ、すん、すんっ 柊の近寄る音は、更に日向との距離を縮める。柊はずっと嗅ぎたかった匂いに、無意識のうちに笑顔になる。 「柊ー?」 「!!」 すると、そこへ冬夜の声が響いた。柊は足を止め振り返る。 「柊、ここにいたか。」 続いて煌の声。その声を聞いて、日向は諦めの気持ちが一層強まった。体が強張る。 「………なんでもな〜い。」 しかし物陰で項垂れる日向に聞こえた柊の回答は、あっさりしたものだった。 「うっわっ!柊、またやったのー?ちゃんと、殴る前にクロの事確認した?」 「あ〜、寝てたの邪魔されて、頭に血が昇ってたから…忘れてた…。」 「おいおい〜。」 柊の言葉に冬夜が呆れたように呟いた。 「しかし、クロ、結構探してる割に、全然見つからないな…。不思議な位に。」 煌が不満気にぼやいた。 「ねー。またなんか考えないと…。」 その後漸く3人がその場を離れると、日向はよたよたと隠れていた身を起こした。 「……なんか…」 柊に妙な違和感を感じた。薄気味悪い。しかし柊だしなと、無理矢理に自分を納得させる。 問題は煌達が、この学校に絞り本気で日向を探し始めている事だ。いよいよ見つかるのは時間の問題だろう。 「……………お茶…」 ポツリと、焦る気持ちを落ち着けるように呟いた。 ---- 「日向ー!バレーに……って、わっ、お前、すんごい汗だな!タオルかしてやろか?」 日向が給水所に戻ると、圭人が駆け寄ってきた。日向は水に浸かったように汗をかいており、圭人はそれを見て目を丸くした。 「あ、うん…。ありがとう。」 日向は圭人に渡されたタオルを受け取り、ごしごしと汗を拭いた。その顔はぼんやりと心此処にあらずで、首筋まで拭くと圭人が渋い顔で呟いた。 「……思ったより、まじで拭いたな…。ちょっ、はい、もう終わり。あんま俺のタオル汚すなよ。」 「おぉっ、ごめん…うん…」 日向はまだぼんやりとした様子で、タオルを圭人に返した。圭人はそんな日向を考える様子でじっと見つめる。そして返してもらったタオルを首に巻きながら、パンっと日向の肩を叩いた。 「ほらっ!日向、バレー出るんだろ?くそ生意気な若者なんか蹴散らせて、勝つぞ〜」 それを聞いて、日向はハッとした。そうだ。バレーの教諭チームに、圭人と一緒に参加させられていた。 ----- バレーはグラウンに線を引きネットを張って行われていた。 「おぉー!日向、流石!!」 こちらの世界でも、多少は身軽に動ける。久々のいい運動に、最初は参加を戸惑っていたのが嘘のように日向の沈んでいた気持ちは高揚していた。 日向の軽い動きに、圭人や周囲の教師から感嘆の声が上がる。それも人との距離が縮まるきっかけにならないかなと、期待出来て日向には嬉しい。 「あっ、」 日向があげたボールがあらぬ方向へ飛んだ。ボールはコートを出て転がる。 「あー、拾いま〜す。」 「圭人、先生…すみません。ありがとうございます…。」 そのボールを圭人が追った。一応人前なので先生を付け、日向が申し訳なさ気に謝る。 コンッ 「………」 「…あ〜、ごめんねごめんね〜……あ、」 「!」 そのボールは、丁度コート脇を歩いていた生徒の足に当たり止まった。圭人はボールを掴み上げ謝る。しかし次の瞬間、圭人は中腰のまま一瞬息を詰めた。コートの中では日向がサッと顔を伏せた。 (煌……!) 煌は圭人を見ると、僅かに眉をよせジッと見つめた。煌に届く。ふわりと鼻腔を蕩かす、甘くあだっぽい香り。時が止まった様にそこだけ空気の流れが緩くなる。 「…なにか?」 「……」 圭人が嘘くさい笑顔を貼り付け、煌に話しかける。しかし対する煌は、何も言わずにその場を去って行った。圭人が首を傾げ、その後ろ姿を見た。 「鬼塚先生、早く投げてー!」 「はいはーい!!」 しかし直ぐに呼ばれ、圭人が小走りにコートへ戻った。 「ははっ、似てるってレベルじゃねーな?コピペ?ってレベル〜。」 「…」 圭人が楽し気に日向に囁いた。 ---- 「はー、なんか、クロともご無沙汰だし、久々こんな汗かいたわ〜」 煌が体育館に戻ると、冬夜がパタパタと手で自分を仰いでいた。 「………保健医。」 「え?なに?」 その場にどかりと座り、ポツリと呟いた煌の言葉に冬夜が聞き返す。 「保健医、何か引っかかる。あいつ、何か知ってる。」

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