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第12話

※三人称視点 日向が家に帰ると、玲次が夕飯を用意していた。 「美味しいっ!」 「それは良かった。」 玲次は日向の向かいに座り、にこりと日向に微笑む。日向はその顔をみて、妙な気持ちになる。煌と玲次と。玲次といると安心する反面、得体の知れない恐怖を感じていた。 (きっと玲次と瓜二つの煌の顔が浮かぶせいだ。…名簿の件もあるし、いつまでこうしていれるのか…。) 急に押し黙った日向を玲次は見つめた。 「……日向、大丈夫か?」 日向が呼ばれて顔を上げると、玲次は心配気に日向の顔を覗き込んでいた。 「いや……玲次、なんてか…本当に、いつもありがとう。」 急に改まった様子で、日向は玲次に礼を伝える。玲次は軽く笑った。 「ははっ、どうしたんだ?急に。」 「いつまでここにれるかも分かんないしね…」 「なにそれ?大丈夫だって。日向は俺が守るから。な?」 「……ふっ、それこそなんなの?」 玲次が最近よく言うセリフに、『な?』という言い回し。玲次の癖なんだろう。日向は玲次にそう言われると、不思議と大丈夫な気がした。 「…だって、俺は、日向を好きだからな。」 玲次のその言葉に、日向は固まった。 ---- 太陽がさんさんと照る正午過ぎ。日向は校舎の裏でガタガタと不燃物の整理をしていた。 「はぁー……」 そして疲れた様子で額の汗を拭う。 (……) 日向は昨晩の玲次との会話を思い出した。 『す、好きって……ん?…んん?!どんな意味の…ラっ…ライク?ラブ?…え、ラブなの?』 『ラブ。』 『えぇ!!…あっ…、ああ………。』 (真顔でラブって…言われたし…。…玲次の事は嫌いじゃない。だけど…。) 結局、日向は玲次の告白を断った。玲次は、そんな気はしていたから気にしなくていい。寧ろ、我慢出来ず伝えて悪かった。と日向に笑った。 (嘘嘘うそ!!いいとか言う割に、めっちゃ悲しそうじゃん!後味が悪い…。…俺にどうしろと言うんだ…。…こっちの世界は異性同性関係ないみたいだけど…。でもなぁー) 「ふー…」 (あの後は、まるで何事もなかった様にご飯して話して、寝たけど…。はぁ…頭が痛い。問題が多すぎる…。) 気持ちからくるのか、この気温から来るのか、日向は自分のこめかみを揉んだ。 (改めて考えると、人を好きとかどうとか以前に、俺、死ぬほどケツだけ酷使されてきよな…。もう普通の恋愛とか出来なそう…。) 「あ、いたいたー!」 「ねぇねぇ、用務員さん!」 「?俺?はいはい?」 悶々としていると、日向に後ろから声がかかる。日向が振り向くと、目の前にはこの学校の女子生徒が2人、スマホを片手にニコニコとこちらをみていた。生徒に話しかけられたのは初めてで、日向は戸惑った。 「あ、やばっ!まじまじ見たら、やぱ、まじでそうじゃね?」 「そうかなー?」 「絶対そうだって!」 「うーん…」 「?」 生徒は日向を前にヒソヒソと話す。取り残された日向は、1人首を傾げた。 「えっと、なにかな?」 「あのっ、もしかして…用務員さんがクロって人ですか?」 「は……………え?」 しんっ… 日向の目には、日向の反応に生徒の笑顔が深くなった様に映った。日向は何も言えず固まる。 「用務員さんって、1年前位に来ましたよね?」 「あと、最近は違うけど、前は黒髪だったし。身長も…」 「やっ……何?」 日向は我に帰り、生徒達の言葉を遮った。 「鬼ごっこ開催中なんです〜。」 「あの〜、SNSでバズっててっ。『鬼ごっこ』って。」 「……鬼ごっこ…」 ざわりと日向の胸中に嫌な感覚が広がる。女子生徒がニコニコと、そしてじろじろと日向を見ている。 「そうそう!クロって人の特徴が載ってて、その、クロを捕まえて、連絡したら、景品?賞金が貰えるって。」 「この学校にはいるみたいなんだけど、まだ誰も捕まえられてないんです。で、うちら考えて、こんなに捕まらないんだったら、もしかして生徒じゃなくてーーー」 「……あのっ!ごめんけど…、それ、俺じゃないよ。俺、2年前からここで働いてるし?」 日向は焦る気持ちを出来るだけ隠し、反論した。 「え?」 「え〜、そうだっけ?そう言われるとなぁ〜…。」 それでも尚、女子生徒は日向をじろじろみた。日向は尚も食い下がる生徒に曖昧な返事をし、逃げる様にその場を後にした。 (だめだ…。なんかもう…吐きそう……。) 恐怖と困惑と色々なものが日向を責め立てた。ふらふらとおぼつかない足取りで、日向は保健室に向かった。 ---- 「圭人、ごめん…ちょっと、ベッド貸して?」 「んー?はいはい…」 日向がガラリとドアを開けると、いつもの如く緩りと白衣を着崩した圭人が振り向いた。そしてベッドを軽く整え始める。 「日向、大丈夫ー?」 ベッドを整え終え、圭人は角の椅子に座る日向に確認した。 「んー、軽い頭痛。」 「そ。頭痛薬飲む?」 「ありがとう。もらう。」 圭人は日向に薬を渡し、日向がうつろ気に薬を飲む姿を頬杖をつき眺める。 「辛そうだなぁ。またなんかあった〜?」 「ん…。大丈夫。ただ、今日は日差しが強かったから…。」 「ふぅん〜。」 日向は言葉を濁した。煌にはいざとなったら逃げる世界がある。圭人や玲次に何かするのではないのかと思うと、あまり2人を巻き込みたくはなかった。 「まぁ、それ飲んで寝ときなよ。」 「ありがと…。」 圭人がベッド脇のカーテンを閉める際、ちらりと日向を盗み見た。日向の目を閉じた顔は、きつそうに歪んでいた。 「………」 圭人はその顔をみて一瞬手を止めるが、何も言わずに静かにカーテンを閉めた。

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