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第13話
※三人称視点
「寝過ぎたっ!!圭人、ありがとっ!」
それから数時間後、日向はベッドから飛び起き、慌ただしく保健室を後にした。
「はははっ、タフここに極まれだね…。」
圭人はバタバタと走り去る日向の後ろ姿を見て、保健室のドアを閉めた。
ガラッ
「おー、なに、忘れ物?」
日向が保健室を去って数分後、再び保健室のドアが開らかれた。振り返った圭人は、入って来た人間を見てふっと笑った。しかし扉を開けた本人は、圭人の笑顔に眉を潜めた。
「……あぁ、こんには。どうしの?獅道くん?だよね?」
「手、切りました。」
煌はそう言って手を圭人に差し出した。
「そう。どれどれ…。ははっ、なるほどなるほど〜。絆創膏じゃ小さくて、程よく浅くて…いい感じの傷だね。」
「………」
圭人はその傷をみて、一層ニヤニヤと笑った。煌を椅子に座らせぎゅっと血を拭き取り、手際よく処置を施してく。
「そろそろ暑くなって来たよね〜。」
「……」
「暑いの平気な方ー?」
「………」
「転校したてだよね?」
「……」
「煌くん、よく校舎でうろうろしてるの見かける〜。」
「……」
「何か、探し物?」
「………………」
「………………」
ひたり。
その瞬間に煌と圭人の目線が初めて合った。
「この傷、自分で切った?」
「……」
「わざと?」
「……」
「もしかして」
「…」
「探しものの件で、俺に会いに来た?」
煌の目つきが先ほどより数段鋭くなる。
「クロは何処にいる?」
「教えてあげたいんだけど…。俺は怖い人に手綱握られててさ。流石に居場所はね…、教えたら殺されそう。」
「……」
「ははっ、しかし、獅道くん?って、喜怒哀楽ある感じ?」
「………何言ってんだお前。」
煌が不審気に圭人を睨め付けた。
「おぉっ、怒った?新鮮……いやいや、こっちの話。話戻すと、クロとやらの居場所は…んー……知らない。ただ、いいものあげよっか。」
「……」
圭人は立ち上がると、自分の机をバサバサとあさり出す。
「バースって知ってる?」
「…」
人の良い笑顔で振り向き、煌に資料を渡した。
「あー、知ってそうだね。これ、詳しい説明書。クロはΩらしいから、ここ!番契約。注意して読んでね。そっちは3人いるんでしょ?」
圭人は資料にある番契約の箇所を指でトントンと弾いた。
「番契約は1人としか結べないからね。因みにクロは番契約の事知らないからね。不意打ちワンチャン〜、チャンスだね。まぁ…つか、あの子ヒートも未だみたい。いやー、αからしたら、お気に入りのΩって凄くいやらしい匂いするんでしょ?ヒートの時とかやっばいらしいよ?うらや「何がしたいんだ。」」
地を這う様な声で煌が疑問をぶつける。
「ははっ、大丈夫大丈夫、この資料、絶対に情報操作とかしてないから!」
ガタッ
煌は圭人を壁に押し付け、首元を握った。
「なに?」
「ふざけんな」
「ははっ、怒って、頭に血が昇ってこんな事するの?その顔で…おもしろ。めっちゃ新鮮!」
圭人は煌と同じ顔をしているが、何をしても動じない兄の事を思い浮かべこの状況を笑った。玲次に比べると、煌は酷く幼く見えていた。
「俺、獅道くんの顔?耐性あるから、凄まれても効かない〜。」
「…」
そこでふと、煌の視線が隣のベッドへ注がれた。
「……ここ…。居たな。」
「あはっ」
そのベッドはクロが寝ていたベッドだった。煌は徐に、ベッドに落ちていたスマホを拾い上げた。
「あちゃー、クロ、スマホ忘れてんし……なんかぬけてるよねー。まぁ、そんなとこも可愛いってか?ははっ」
「…」
「いや、そんな睨むなよ。大丈夫、大丈夫。俺は誰よりでもないから、止めない。どうぞ、お持ちになって下さいっ!」
小芝居のように話す圭人を無視して、煌は保健室の出口に向かった。
「……お前、ムカつくな。」
「ははっ。ごめんごめん。」
捨て台詞を残し、保健室のドアがピシャリと閉められた。
「…ウケんだけど。」
まだニヤけたまま、圭人は1人呟いた。
「あ、そうだそうだ。」
圭人は自分の机に向かい、煌の血を拭き取ったガーゼをジップパックに入れながら電話をかけた。
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