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第14話

今日は散々だった…。体調は悪いし、スマホは無くすし…。それに、あの生徒達に会って鬼ごっこ云々言われて、人の目が妙に気になって仕方ない。ずっとソワソワとしていた。きっと冬夜あたりが仕組んだんだろう。そういうこと得意そうだし。 俺は夜道をとぼとぼと歩いていた。街灯の少ない薄暗さが、自分の気持ちとリンクする。 コツコツコツコツ コツコツコツコツコツコツ 「……」 気のせいか、後ろから足音が聞こえる。住宅街だからあり得ることだが、こちらが早足になっても、ゆっくり歩いても、相手と一定の距離感となる。考え過ぎなのかな…? 俺はそろりと後ろを振り返った。しかし薄暗い街灯の下では、相手の顔は見えない。 「…」 体格的には、煌達3人の誰とも合致しない。そこでホッとするが、そもそも、あの3人ならこんなまどろっこしく付いてきたりはしない。一気に襲い掛かってくるだろう。 ……鬼ごっこ…?自意識過剰かも知れないが鬼ごっこの参加者が、家を特定してようとして……? そこまで考えて俺は頭を振る。 それは幾ら何でも考え過ぎだ。多分。何にしろ、気持ちが悪い。問題なのは、もう直ぐで家に着いてしまうことだ。あれは玲次の家だ。俺の家じゃない。変に迷惑をかけたくはない。 「はぁーっ」 「どうした?」 「わっっ!」 俺がため息をつくと、いつの間にそこに居たのか、玲次が急に隣から声をかけてくる。 「びっくりした!」 「あぁ、ごめん。後から見えたから。」 「いやいや、俺こそなんか過剰に…ごめんな。」 後ろをチラリとみると、もうあの人影はなくなっていた。 「?うん。」 玲次は不思議そうに、俺が振り返った先を一緒に見た。 「そういや、日向、俺、今日手を怪我して、料理するのに支障がありそうだったから寿司買ってきた。大丈夫か?」 「え?本当!?嬉しいっ!いや、てかそれより、手の怪我大丈夫?深いのか?」 料理が出来なくなる位だから、相当深いのか?大丈夫なのかな??暗くて気づかなかったが、玲次の左手の甲にはガーゼが貼られている。 「ちょっと、カッターで切ったんだ。絆創膏では小さいから、こんなだけど傷はかなり浅い。だから大丈夫。明日には塞がっていらだろう。」 「それなら良かった…。」 ホッとする俺をみて、玲次がニコリとした。 「日向は、マグロ好きそうだから買ってきたけど合ってた?」 「合ってる!ありがとう!あと、ハマチとかは……。」 「ハマチかー!サーモンは好きそうだから買ったけど、白身はあんまり買ってないぞ。返信くれれば、もっと色々日向が好きなネタばっか選んだのに。」 「……あー」 そうだ。スマホ…落としたんだった。 「玲次、俺、スマホ無くしちゃってさ…。連絡、ごめんな…。」 「え、本当か?」 玲次は考え込むように顎を触った。 「……それは…心配だな…。」 「う〜ん。まっ、明日、落とし物に来てないかみたくる。」 「確認した方が良いぞ。だって、もしそのスマホを、日向を探してる奴が手に入れてたち、ヤバイだろ。スマホなんて個人情報の宝庫だからな。」 「……」 そうだ。俺は自分が余りにも呑気だったと反省した。何処までそうかは分からないが、スマホについた俺の匂いで、持ち主はバレる?あっちの世界ならバレる。こっちではどうだろう…。兎に角、百害あって一利なしだ。早急に見つけないと…。 俺は再び悶々と黙り込んだ。 「……」 僅かに玲次の視線を感じる。きっと心配しているんだろう…。本来ならば玲次にも「なんとかする。安心して欲しい。」そう言うべきだが、俺は玲次の顔を見る事が出来なかった。 ---- 「日向、おいっ、日向。」 「…ん〜、あー、ごめん。寝落ちしてた…。もう、1時か…。」 俺は風呂上がり、玲次とテレビを観ており、そのまま寝落ちしてた。ソファの上で玲次に揺すられて起きた。俺はぼんやりとした顔で、ボリボリと頭をかいた。 「……日向、最近疲れてるし、夜はちゃんと寝れてるのか?」 玲次が心配そうに聞いてくる。実はその通りだ。最近は落ち着かなくて、そのせいで眠りも浅い。 「ふぁぁぁああ〜、うん。……大丈夫ー…。」 「……本当か?」 「うん…。」 俺はよろよろとソファから立ち上がり、大きな欠伸をしながら伸びをした。 「……日向、一緒に寝る?」 「…うん……え、は?」 「ふっ、ははは、いや、冗談だけど。」 思わず俺はぼんやり頷くが、その後玲次をきょとんと見上げた。玲次は冗談だと笑うが、俺は急に玲次の告白を思い出し顔が熱くなる。 「むっ、…っ、おやすみっ!」 「ははははっ」 玲次が俺の反応を見て笑う。俺はと言うと、そのまま逃げるようにその場を後にした。 「……ふっ、後少しだな…」 だから玲次のそんな呟きなんて、聞こえもしていなかった。 --- 「俺のスマホ……スマホ……。」 翌朝、俺は1番に校内の紛失物管理ボックスを確認しにいった。しかし幾ら探しても出てこない…。 『だって、もしそのスマホを日向を探してる奴が手に入れてたら』 「………まさか、な……」 俺はごくりと生唾を飲み込んだ。 しかし、その日の夜。 コツコツ…… コツコツコツコツ… コツコツコツコツコツコツコツコツ… コツコツコツコツコツコツコツコツ… (絶対…!つけられてるっっ!!) この有様だった。 バクバクと心臓がなる。これは、思い過ごしでない気がする。いやそうだ。どうするか…。 コツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツ…… 「……っ」 俺は耐えきれずに走り出した。 「!」 (まじか!) しかし、相手の方も走り出す。俺は内心ぎょっとした。こんな、もう、確定だ! 「はっはっはっはっ…!」 走ったからと言うよりも、緊張や諸々で、息が苦しい。くそっ、いったい何なんだっ!! 「!れ、玲次っ!!」 「日向?……日向!!」 走っていると、少し先に帰宅途中の玲次が見えた。俺は反射的に玲次の名前を呼んでしまった。俺が名前を叫ぶと、玲次は直ぐに俺の後ろに気づいたようだった。驚いた顔をした後、こちらに向かって走ってくる。 「お前っ!!」 玲次は俺とすれ違い、俺の後ろにいた男を殴った。男がぐぐもった声を上げた後、地面に蹲る。そして、確かに聞こえた。「鬼ごっこ……」男は、小さくそう呟いた。俺はそれを聞いた瞬間、心臓を掴まれたように息が止まり、思わずその場に尻餅をついた。 「意味が分からない事で、人を追いかけ回すな。次やったら通報する。もう今後一切こんな真似はやめろ。」 そう玲次が言うと、男は焦った様子で走り去っていった。 「はぁっ、はぁっ、はぁっ、っ」 「日向……」 名前を呼ばれて顔を上げると、玲次がこちらに手を伸ばしてくれた。その手を掴むと、すっと不安が消えて安堵が自分の中に広がるのを感じた。そうだ、いつも玲次は助けてくれた。 「あ、うっ…、うぅ、玲次……玲次……」 玲次に抱きつく。玲次は何も言わずに、ぎゅっと抱き返してくれた。

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