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第15話

「日向、もう大丈夫か?」 「………うん。」 「……本当、いつもの冗談じゃなくて、今夜くらい、一緒にいなくて大丈夫か?」 家につき、俺が少し落ち着くと、玲次が俺の背中をさすりながら聞いてくれた。確かに今日の言い方は、いつもの茶化した言い方ではなく、真剣な声だった。 「……うん。」 「本当?」 「…………うん。」 「…………そうか。」 「……あっ」 俺がそう答えると、すっと、玲次の手が背中からひかれた。その瞬間、再びどっと不安が舞い戻ってくる。俺は焦ったように、玲次の方を見た。 ---- 「日向、項の傷、大分項の傷が塞がってきたな。」 「んっ」 後ろにいる玲次が、俺の項をするりと撫でた。 結局お願いして、玲次と一緒にベットに入った。一緒に横になり、玲次は後ろから俺を抱きしめていた。 項に触れられると、擽ったい。そして何か不穏な気持ちが生まれる。俺はごろりと寝返りを打ち、玲次の方を向いた。 「……」 「……向き合うと、はずいな。」 「ははっ」 俺が堪らずそう漏らすと、玲次がふわりと笑った。その笑顔を見て、俺の口元も緩む。玲次、いつも助けてくれて。 「玲次、いつもありがとう。」 「いいんだ。俺も、日向が気になるし…。」 「……玲次…」 「ははっ、ごめんな……。ちょっと、それは、しつこいよな…。」 玲次が申し訳なさ気にそう言い、寂しそうに目を伏せた。 「………」 その姿を見ていると、胸に妙な気持ちが生まれる。俺は思わず、玲次の頬に手を伸ばしていた。何か、玲次が自分にとって凄く大事なものに思えた。 「………」 玲次が目を細めて俺を見る。表情が少ない玲次のその顔。見ていると、胸の中がほわほわと暖かくなる。 そうだ。いつも、身を挺して助けてくれたのは玲次だ。 「……日向?…!」 俺は玲次にキスをした。 「ふっ、」 鼻から抜ける音。くちゃりと、やわやわとした感覚に熱が昂まる。 「………ふっ、日向、勃ってる?」 ---- 「痛くない?」 「んっ、痛くっ、ないっ!……っ!」 玲次が俺の上で、正常位で挿入しつつ確認してくる。俺は顔を隠して、はくはくと息をはいた。 正直、寧ろ、早く早くと思う。俺、悲しき事に、もはや自慰する時、後触るからな…。 「日向、ゆっくり、するから…。」 「んっ、んんっっ!」 ……こんな風にちゃんと気遣ったもらった事なんて、ほぼ無いに等しいので、変な感じ。ずっずずずっとゆっくりと入って来ると、逆に焦らされているようで余計感じてしまう。 「……ふっ、入った。」 「あっ…」 「日向…」 そう言って玲次は俺の顔を隠す手をやんわりとずらし、キスをしてくる。アイツらと違って、優しいキスだった。 「はっ、可愛いっ、」 「……っ」 玲次がうっとりとそう言った。 「動く。痛かったら言うんだぞ。」 「んっ。」 玲次がゆっくりと動き出した。やわやわと、優しい動きだった。 …優しい…うん…。 「あっ、ふっ、ふっ、れ、玲次!」 「日向?」 「ごめんっ、ごめんっっ、もっ……もっと、」 「え。」 「はぁっ……っ!」 俺の言葉に玲次は動きを止め、きょとんとした顔で俺の顔を覗き込んだ。 これぞまさに。顔から火が出る…ってやつ。 「もっと、動いてっ。ごめっ、ごめんっっ!もっと、…その、激しめに…お願い………ごめんっ」 「…………ふっ、ははっ、日向、」 玲次の顔が近づき、俺の耳元にキスしてくる。 「本当、可愛い。」 「あっ、ふっあっ、〜〜っ!あっ、ふっっ!」 「日向、好き…好き…好き……」 耳から流し込むように、浸透させるように、耳に口を寄せてそう言いながら玲次は先ほどより激しい律動を始めた。 …なんか変。変になる。頭がぽやぽやとして、じんわりと暖かい幸福感が溢れてくる。好き好き好き好き…繰り返される言葉に、脳が侵食される。 「んっ、はぁっ、気持ちぃっ!だっ、だめっっ、あっ、!!」 「ははっ、どっち?」 「んっ、はぁっ、きもちっいぃっっ!」 「ふっ、そう…。ねぇ、顔、見せて」 「っ」 これまで馬鹿みたいにやってきたのに、今はギシギシとベットが軋む音ですら恥ずかしい。顔が真っ赤だ。しかし顔を見せてと、玲次は俺の手を押さえ込んでくる。 「はぁっ、日向…。」 「ふっっんんっっ!!」 キスも先程に比べると荒っぽい。しかし荒い行為に慣れた体には、それが凄く気持ちよかった。 --- 「日向、悪い、俺……つい、がっついてしまって…。」 「いいよ…。大丈夫〜。」 正直、後半はハードだった…。俺は見るからにヘタって、ベッドにぼろりと転がっていた。やはり体力的なところは、玲次と煌でどっこいどっこいのようだ。玲次の方が百倍優しはあるけど。変な事言うのを強要されたりもないし。 「日向、起きれるか?」 「ん。」 「水、汲んで来たから、飲んで。」 「ありがとう…。」 「あと、悪いけど、今からシーツ替えるな。ちょっとベッドから降りれる?」 「うん。」 玲次が心配そうに俺をチラチラとみて、いそいそとシーツを替える。体のでかい玲次と、その健気な姿がアンバランスでちょっとほっこりしてしまった。 「なんか…本当、すまんな…。」 「え?!やっ、は…ははっ、全然、そんな気にしなくて大丈夫だよ!俺、アイツらにもっと酷い事されまくりだったし。下の方とか完全に管理されちゃって、終いには常に他人の右手に世話になる始末で………あ、いや、変な事言って、ごめん。」 玲次がじっとこちらを見て来るので、俺は押し黙った。玲次を元気付けようと、ついに変な事を言ってしまった…。流石に、アブノーマル過ぎるよな…。アイツらが変態過ぎて、俺の感覚がとうにズレているのは自覚している。もっと自重しないと…。 「日向は、凄く綺麗だから。」 「……」 玲次は真顔でそう言った。……結構攻めて来るな…。思うに、玲次も玲次で少し天然な気がする…。真顔で変な事よく言うし。しかし、 「……ありがとう。」 嬉しかった。自分が変になってて、汚れてるって心の何処かにあった。だから誰かとこう言う関係になるのは後ろめたかった。でも玲次にそう言われると、心の蟠りが浄化する気がした。 「…玲次……俺玲次に会えて、本当に良かった。」 「………ああ。」 あれ?玲次は俺のその呟きに、一瞬目を伏せた。まるで、後ろめたい事があるように。 「日向、責任はちゃんと取る。ずっと、ここに居ていいからな。」 「ははっ、そんな重く考えなくていいよ。俺もいつか、一度はあっちの世界に帰りたいし…。」 「……え?」 玲次は俺の言葉に玲次が固まった。 「あ、いや…ずっとではないけど…、俺、親父があっちの世界に居て。ただ1人の家族だし…、いつかはまた会いたいんだ。ごめんな、なんか……こんな後に…。」 「………いや。……うん。…うん。分かった。」 玲次はそう言って俺を抱き寄せ、ぎゅっと抱きしめてくる。……心地よい。俺は何も言わずに、玲次の腕の中に居た。 その日は久しぶりに安心して寝れた。

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