20 / 43

第16話

※三人称視点 「日向、こっちも食べるか?」 「うん。玲次ありがとう。これ、うまっ。」 「そうか。好きならもっと取って良いぞ。」 (え、なに?…まさか。) 仕事帰りに兄の家に寄った圭人は、目の前の2人をみて内心驚いた。前見た時から、玲次と日向の距離がかなり近いように感じる。 「……2人、ついにできた?とっても仲良しだね〜。」 動揺を隠すように、圭人は茶化して聞いてみる。すると、2人がくるりとこちらを振り返る。玲次はいつも通り表情からは読めないが、日向は赤い顔でこちらを見ていた。 (まじか。) 兄は普通じゃない。圭人は小さい頃から、何処となくその違和感に気付いていた。それが決定的になったのは、2人が小学生の時。2人は下校中に、圭人が餌付けしていた野良猫が死んでいるのを見つけた。圭人は動揺して泣いたが、玲次は表情1つ変えなかった。せめて埋めてあげようと、2人で公園の隅に座り込み地面を掘った。ボロボロと泣く圭人を玲次はチラリと見て、 「圭人、手、疲れるな。」 そう言った。圭人は思わず、ぽかんとして兄を見つめた。そして、その時確信した。コイツは、俺の兄は変だ。ロボットだ。だから、玲次が日向と話して笑った時は驚いた。本当の笑顔だった。圭人からすれば当たり前のことだが、やはり、玲次には幸せになって欲しい。日向と上手くいけば、それが叶う気がした。今のところは順調そう。そう考えて、圭人はホッとしていた。 「わっ、玲次、ごめんっ!」 「いや、このグラス、ヒビ入ってたんだろ…。俺が気付かなかったのが悪い。いいよ。」 しかし、綻びは得てして気付かないもので…。日向が玲次に渡したグラスにはいつのまにヒビが入っており、赤いワインがボタボタとこぼれた。圭人は複雑な顔でその様子を見ていた。 --- 「兄さんよかったね。日向。」 「…。」 日向が風呂に入った隙を見て、圭人は話を振った。 「ははっ、でも、急だからびっくりした。最近日向疲れてたし。……またなんかした?」 何も、普通に恋愛に発展すればそれが良い。 「うちの高校では、職員の名簿なくなったり、変なSNS流行ったりしてたよ。」 「………」 圭人の話を聞き、玲次がじろりと圭人を見つめ返した。 「SNSは知らないけど、名簿は兄さんでしょ。獅道くん達は日向は生徒だと思ってるみたいだし。でもそれだけだと押しが弱いし……。え、まさか、帰宅途中に日向を追っかけたの、兄さんの差し金?」 「………決定打が、いるからな。」 (はぁ……) 兄の危うさはこれだ。確かに、普通に暮らしていて兄と日向がくっつく事は無かっただろう。しかし、だからといって無理矢理に相手をコントロールするような真似、普通はしない。 「……」 玲次はまた考えるように黙り込んだ。圭人が思うに、兄は完全に何も感じない訳ではない。『圭人、手、疲れるな。』あの時は自分も幼くて特に考えなかった。しかしよくよく考えれば、それは兄らしくはない発言だ。きっと、人の気持ちがわからないなりに圭人を気遣ったんだろう。今も、自分の気持ちの揺らぎに本当は気付いているはずだ。 (上手くいって欲しいけど…まだ落ち着きそうにはないな…。) 圭人は小さくため息をついた。 ---- 「煌〜?それ、何?スマホ?煌のって、そんなだったっけ?」 いつも煌達が溜まり場にしている空き教室。そこで椅子に座った煌がクロのスマホを触っていると、冬夜が声をかけた。 「クロのスマホ。多分。」 「え!まじ?!」 煌の言葉に冬夜が大きく反応し、机に突っ伏し寝ていた柊もぴくりと反応して煌の元に近寄ってくる。 「パスコードつけて……るかぁー。クロだと……『1234』とか?『4321』??」 冬夜がクロが昔よく使っていたパスワードを言う。 「『1138』」 「あー、それ前よく使ってたなー。イイ鯖、ね。どうせこのスマホもしょうもないゴロに設定してるんだろな…。そゆとこ可愛いよね〜。」 柊も思い当たる番号を言い、冬夜が懐かしそうに呟く。2人で様々な番号を入力した。 「あー、どれも違うか〜。うっわっ、ロックかかったし。……はい。」 何度か色々な番号を入力した事により、クロのスマホ画面にはロックがかかる。それを不満げに冬夜が見つめ、スマホを煌に返す。 「まぁ、これを持っていたら、あっちから出てくるだろ。」 「ふーん。なるほど。それは、確かにあるかも…。何にしろ、煌の勘はよく当たるもんなー。」 煌の呟きに、冬夜が頷いた。そう、持っているだけで、あっちから来る。そんな気がした。だから焦る必要なんてない。 「……」 そこで、クロのスマホが振動する。ふと煌が振動するスマホ見ると、また同じ人間からの着信だった。『鬼塚 玲次』このスマホを拾ってから何度か連絡が入っている。何処の誰だ。名前しか知らないが、その名前を見る度に、煌はいい気がしなかった。

ともだちにシェアしよう!