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第21話
「はよ〜こざーます〜。」
家主に了承も得ず圭人は勝手に玄関のドアを開け家に入り、玄関から声をかける。しかし家内はシーンと静まり返っており、返事がない。最近は毎週の様に、土日になるとこの家に顔を出して、もてなされるのが習慣だったので圭人は不思議に思った。
「あれ、もう出掛けたのか??でも、あの、兄さんが鍵閉めずにとは珍しいな?」
圭人は頭にハテナを浮かべて首を傾げ、靴を脱ぎ勝手に家に上がる。
「おーい。日向ー?スマホ、いい感じの購入割あったから買いに連れてってやるぞ〜。いないのー?」
「………日向なら出掛けた。」
「わっ!!」
半ばもう誰もいないと鷹を括ってリビングに入ると、入口から死角になったソファから急に玲次に声をかけられ、圭人は飛び上がる程びっくりした。
「なんだ……いるなら返事しろよな……。びびったー。」
「………」
「……?」
なんだ?圭人は僅かに兄の様子に異変を感じた。見れば朝食の食器はそのままだし、兄は未だ髭も剃っていない。几帳面な兄にしては珍しい。
「……兄さん、日向出掛けてるって…帰ってくるんだよな?」
圭人は嫌な予感がして、玲次に恐る恐る聞いた。
「…」
玲次は圭人に一瞥し、また目線を何も映っていないテレビに戻した。
「戻っては来る。」
「戻ってはって……。」
やっぱり…。
「ま、まさか…日向、獅道に見つかったの?」
「獅道以外にだが、見つかってる。」
「えぇ?!誰であれ、ダメだろ!どこ行ったの??つか、なんで行かせたの?!!」
「圭人」
「…っ、なんだよ」
慌ててその場で騒ぐ圭人に、玲次が静かに声をかけた。
「昨日、脈を取りながら日向に質問をした。」
「ん?」
(え?なに?嘘発見器的な?いやでもなんで今…。つか、何やってんだこのカップル…。)
圭人は玲次の突拍子もない発言に思わず思考が止まった。
「大方、日向の発言は嘘だった。体が大丈夫かと尋ねると、大丈夫だと日向は笑って答えた。それも嘘だった。」
「……そりゃ…」
(それで、こんなに…)
そうだな。恋人が苦しんでるのは誰しも辛い。圭人は玲次に生まれて初めて同情の気持ちを感じた。
「その時、俺はひどく興奮して、日向に欲情した。」
「…………………………………え?なんて?いや、なんで?」
玲次が真剣にさらりと言った言葉に、場違いにも圭人は口をぽかんと開け、聞き返してしまった。
「その日向が、他の奴に犯されてると思うと……」
(おかさ………え?えぇ?!)
玲次は真顔で真剣に話を続けるが、圭人は内心軽く混乱していた。しかし要約すると、兄は日向が他の男と事に及ぶのが嫌なのだ。いやいや…、何を当たり前の事を…。
「兄さん、なんで…それで日向を行かせたんだよ…。」
「日向は、父親が居るから、ずっとここにはいれないらしい。」
「………はぁ…」
圭人は兄の言わんとする事を理解した。父親との関係を潰すため、日向に情報収集させている。日向が父親に会いに行くタイミングで、何か仕掛ける気か?
「日向はまだ自由に動かせるべきだ。しかし…今日は、日向に行って欲しくない…気がした。」
「………。」
だから、そりゃ…。当たり前だろ。しかし、この当たり前が理解出来ないのが兄だと圭人は知っている。だから、どう言えばいいのか……。
(いや、兎に角、今は日向を連れ戻すのが先決だ。)
日向が危ない目に遭うのであれば、玲次の意に反しても日向を助ける。圭人は元からそう決めていた。
「兄さん、日向、どこに行ったの?日向のスマホの位置情報、取れるようにしてたよね?」
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「クロ、こっちこっち…。」
「…ああ…。」
冬夜がちょいちょいっと、俺を手招きする。俺は重い足取りでその後を追う。
「なぁ、本当に、他の2人はいないんだよな?」
「いないいない。」
「……」
というか、何故、お前だけ残っている?お前は帰らなくていいのか??
どこでどう騙されるか、俺は気が気ではない。警戒しながら冬夜の後に続いた。着いたのは、駅から程遠くないマンションだ。……随分良いとこ住んでるじゃねーか。マンションのエレベーターに乗り、部屋に入ると広い室内が広がっていた。確かに煌達はいなさそう。
「そんな気軽に行ったり来たりも出来ないからね。おうち借りちゃった。」
「……へー。」
そうですか。仮住まいなのに、随分立派な家だ。聞くと3人で1個づつ、マンションの部屋を借りているらしい。俺は身分証無くて借りれなかったんだけど、どうやって借りたんだろう?
「やっぱり本気だったか…」
冬夜のマンションに入ると、案の定、制服を渡された。
「当たり前でしょ〜。ははっ、クロが着た制服、柊に高値で売れそうー。」
「え……そ、そんな…バレるだろ。」
「あはっ、そうだねー。」
本当かよ。冬夜はいまいち信用ならない。早いとこ集めれるだけ情報を、集めて、とっとと冬夜の前から消えたい。
「てか、あの扉って何?」
俺はその服をのろのろと着ながら質問した。
「あーね、あれ凄いでしょ?」
「あー…うん。凄いよね…。」
俺の質問に、冬夜は自慢気にドヤりと笑う。しかし俺が聞きたいのはそういう事じゃない。もっと具体的に聞くべきか。
「あれは、ゼロから全部冬夜が作ったのか?」
「いやー、ゼロからはキツいっしょ。扉の元を持ってきて、修復して……てか!クロが壊して、煌ブチギレで、修繕大変だった!!」
「え…」
「しかも時空の歪み?で煌は腕を切って、大怪我するしな…。あの時は本当、まさに馬車馬の様に働いた!」
そういえば、俺と最初にあった時玲次も腕に大きな怪我をしていた。だから仕事に行けないとかで、付きっきりで看病してくれたんだよなぁ…。はぁ…。
とりあえず、冬夜のこの言い方、もう一個別の扉を作る事は出来なそうだ。ならば、今ある扉を使うしかない。
「冬夜、あの時はごめんな。因みに、あの扉は今どこにあるの?」
俺達が今居るのは恐らくリビングだ。ここから見える扉は2つ。1つは廊下に繋がる扉だった。もう1つの、見えてるあの扉の向こうにあるのだろうか?
「えー、なんでそんな事知りたいの?てか喉渇いてない??」
冬夜は冷蔵庫をパカリと開け、飲み物をグラスに注ぎながら答えた。
「はい。お茶。」
「……要らない。ありがとう。俺、ペットボトル持ってきたから。」
冬夜がくれるものは、大体なにか入ってる。経験上それを承知しているので、俺は頑なに拒否する。しかし冬夜に引く様子はなかった。
「いえいえ、どうぞって。」
「要らないって。」
「飲めって。」
「大丈夫だって。」
「飲め。」
「………」
もう…確実に何か入ってんじゃん…これ。あまり機嫌を損ね過ぎても宜しくないので、俺は観念してお茶を貰って飲んだ。俺の喉がゴクリと動くと、冬夜はにっこりと笑いソファに移動した。
「じゃ、なんか観る?映画とか?テレビとか??まったりしよー。」
「……うん。なんでもいいよ。」
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