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第27話

なんでっ、煌が玲次の事を…! 俺はかなり焦った。何とか…何とか言わないとっ!しかし、何で言えば…。 そうこうしている間にどんどん煌の機嫌が悪くなるのを感じた。何か…フォローしないと、玲次に何をされるか…。 「あっ、う、…こ、煌…」 「………」 煌が咎めるようにきつい視線を俺に向けた。 「うっ……、ご、ごめんなさい…。逃げてすみませんでした…。」 「……」 「もうっ、逃げ、ません…。」 「………」 「だからっ、も、一度……か、…っ、飼ってください…。」 前に言えと言われた事を言うが、何故か言えば言うほど、煌の目がすわり怒りの色を濃くする。 「あっ、う、うぅ…っ、」 じゃぁ、何言えばいいんだよっ! 俺は思わずオロオロとしてしまう。仕方ない…。 「んっ、…っ、はっ、」 「……」 「俺は、煌の、………ですっ、め、…雌です……っ」 俺は煌の両頬に手を添えると、キスを落とした。まるで服従を示すようなキスだとぼんやりと思った。 「え、クロ、まじで!?え、えー!煌いいないいなー!」 そして、自分で煌の上で動いた。これには流石に煌も意外そうな顔を一瞬見せた。俺が自分で動いた事なんてなかったから、驚いたんだろう。 横で見ていた冬夜も、驚きの声をあげた。 「はぁっ、んっ、ふぅ、うっ、…っ、んっ、」 「………ちっ」 「…っ!!」 しかし煌から聞こえたのは舌打ち。俺は身を硬らせ、それでも行為を続けた。 「んっ、」 そしてまた煌にキスをした。 ---- 「あ゛ー……、怠い…。柊、どけて。」 「えー…。」 朝、起きると柊が犬の様に覆いかぶさっている。ひと昔前の、毎朝お馴染みの光景。本当に、戻ってしまったんだな…。 連れ戻されて2日目、漸くあの行為から解放された。それからは、お馴染みの監禁生活だ。 「クロ、ちゅーして。」 「嫌だ。俺はこれから朝食だし。三食と睡眠は確保されるルールだろ。」 俺が冷たく言い放つと、柊はしゅんとして俺の上から退いた。これは昔の監禁ルールだった。俺で十分に遊ぶため、珍しく煌が言い出したルールだった。三食とる事と睡眠中は邪魔されない、襲われない、何かを強制されない。本当、煌は俺の精神が死ぬギリギリを攻めるのが上手い。 俺はため息をつき、部屋を出ようとして、がくりと倒れた。いっ、痛いっっ!当たり前だ。ブランクあるのにめちゃくちゃしやがって…。 「クロ、肩かす。」 「んー、ありがとう。あ、触るなよ。」 元はと言えば柊のせいでもあるのだけど、癖なのか何なのか、思わず例を言い部屋を出た。ついでにあらぬ所を触ろうとする柊の手を払う。 「今もご飯は当番制なの?」 「今までは個別だったけど、クロ帰って来たから、また当番制になったよー。」 「あー…、柊がここに居ると言うことは…、どっち?」 「肉。」 「煌か…。」 変な所で常識的で、基本的に家事は分担性だ。何故か俺まで組み込まれてるのがまた腹立つ。普通、監禁してる人を家事当番に組み込まないよね? あと食事。煌は、肉料理しか作らない。朝からキツい…。こんな朝は特に。 「あ、おはよう、クロー。」 「おはよう。」 「……」 冬夜が爽やかに肉を食べながら挨拶をしてくる。その横では、こちらをチラリと見て、また視線をそらして無言で肉を食べる煌がいる。……なんだよ、まだ怒ってるのか、相変わらずの威圧感が凄い。これは…大人しく肉食べないとまた怒られそうだ。 「クロ、腰は大丈夫?」 「……きつい。」 「そっかー。薬とか塗ったげようか?」 「クロ、さすってあげる。」 「もー!触るなっ!!」 冬夜の問いかけに俺が恨めし気に答えると、冬夜は怪しげな薬を持ち出すし、柊はさわさわと触れてくる。それよりもほっといて欲しいのだが。どいつもこいつも怪しい。 「はぁー…」 帰りたい。 「なに。玲次とか言う奴に会いたいの?」 「……は」 ガンっ 「!」 その場が静まり返る。冬夜の言った軽口に俺が反応する間も無く、煌が俺の座る椅子を蹴った。俺はびくりと飛び上がる。てか、尻に…響くだろ…痛い。 「クロ、こい。」 「は、はい…。」 しかし怖いのでとりあえず黙る。黙ってついて行く。 連れて行かれたのは、リビングの隣の部屋だった。その部屋で煌はクローゼットを開け箱を取り出した。え、何それ?また変な事されるの…?三食確保の約束だったけど…、大丈夫だよな。ここで全ては、煌の鶴の一声だ。でも玲次の事もあるし、下手に逆らえないからな…。 「付けろ。」 「ん。…ぐっ」 煌が取り出して、俺にぐるりと巻きつけたのは首輪だった。 「……またか…」 「……」 俺は不満気に首輪を弄る。昔も付けられていた。やばい時はリードも付けられる。首輪は嫌な思い出の化身だ。 「あ、いえ、付けときます。」 「………」 不満気な俺を無言で煌が睨むので、俺は慌てて頷いた。 「じゃっ…」 「……おい」 「?なに??」 そのままリビングに戻ろうとしたら、煌に腕を引かれた。 「首輪を付けてやったんだ。礼くらいしろや。」 「え。…あ、ああ…」 煌はそう言って意地悪く笑った。 礼?…こっちは欲しくもないもん押し付けられてるってのに。しかし仕方ない。 「ありがとうございました。」 「……はぁーっ、クロ、お前本当アホだな。もっと態度でなんかあるだろ。」 とりあえず礼を述べた。お辞儀付き。しかし煌は呆れた声を出すだけだ。 態度で…か。 「んっ、…っ、…ありがとうございました!」 今度は、俺は軽く爪先立ちになり煌にキスをして、礼を述べた。軽くちゅっと音がする。朝から自分で強請るような行為に、顔が赤くなる。首輪つけてこんな事を、どこの変態だ…。 「は?お前、舐めてんのか?ぬるすぎだろ。」 「えっ……だっ…だって…え、これ以上は……は、恥ずかしい……。」 「……」 そんな無茶振りされても…。いったいコイツは朝から俺に何をさせようってんだ!?前なら全力で拒否していたのを、自分から頑張ってしたのに。 下らない事だが、俺は本気で恥ずかしいんだ…。キスという、妙にピュア感ある行為がまた恥ずかしい。しかしそれ以上を白昼堂々とするのはもっと気が引ける。何にしろ、嫌だ。恥ずかしい。こんなカッコで、顔が赤くなるとアホが際立つ。平常心で居たいのに…顔に熱が集まるのが自分でも分かった。俺は逃げる様に煌から視線を逸らした。 「………ふっ…」 ふっ……ふ?? 結果、煌に鼻で笑われたようだ…。妙な敗北感。 「戻るぞ。」 あ、許された? そう言って、煌は俺をひっぱってリビングに戻る。はぁ…この先が怖い…。1年間の間に、普通の生活に大分慣れたからな。 でも考え様によっては前よりは望みがある。こっちには玲次も圭人もいる。自分で脱走出来ればそれが1番いい。それが無理な場合は、玲次か圭人に連絡できれば良いんだ。情けないが、助けて貰えるはずだ。そう考えると、昔よりかは遥かにハードルが低い。

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