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第28話
「お、新しい首輪、いいじゃん。」
「………」
俺が戻ると、冬夜が茶化す様に声を掛けてくる。内心、よくねーよ!と罵声を浴びせるが、煌の手前黙って受け流す。俺は席につき朝食を再開した。……朝からステーキ…きついな…。噛めど噛めど、飲み込めない。
「冬夜、俺の親父がどうのって話しなんだけど…。」
「え?なんだっけ?」
おいおい…。俺はステーキをキコキコ切りながら、冬夜に怪訝な視線を向けた。冬夜はもう食べ終わった様子で、今は紅茶を優雅にすすりながら呑気な声をあげた。
「俺が親父に会っといた方が良いとか言ってただろ!」
「あぁ。あれー、」
あー、この感じ…やっぱ嘘か。
「クロのお父さん引っ越すらしいよ。ね、煌?」
「え」
「あぁ、俺の父親が退位した後、うちの親父について都市部から引っ越す。」
「ええ!」
そうなの?!俺がこっちきてから、親父との文通も出来てないし…。もっと言うと、監禁されて会ってないから軽く4、5年会ってない!!
「煌、俺、親父に会いたい!」
俺が思わず煌の腕を握り仰ぎ見ると、煌が俺の顔を見た。じっと俺を見てなにか考えている様子だ。
「クロ、将来は庭師になりたいのか?」
「え、うん。そうだけど?」
話繋がらなくない?
しかも、庭師は都市部でないとなれない。俺はいつか田舎に行く予定だから、厳密に言うとちょっと違う。でも煌は立場的に田舎に行けないから、話を誤魔化す。こんな遊びも煌が本格的に王位を継いだら、暇も興味も無くして終わるだろうし。てか、終わってくれ。
「今の仕事はその役に立ってるか?」
「?ま、まぁ…。」
スキル的なところは。だから、なにが言いたいんだ。
「ならば……まぁ、考えておく。」
「………」
本当かよ。さっきの会話でなにか判断材料あったか?
煌が呟く姿を俺は微妙な顔で見た。
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深夜、俺は煌の部屋の前に居た。煌は親父と会わせるとか言うけど、ぶっちゃけ嘘だと思う。煌の父親はまともだから、その父親と仲の良い俺の父親に変な事を言われるのを防ぐため、俺と親父を会わせたがらないのは知っている。それが急に合わせるとか…。そもそも、王位継ぐのっていつだよ…。
冬夜が漏らしたから、冬夜の家に扉がある事は分かった。ここは一度引いて、またこいつらがあっちの世界に帰ったタイミングで忍び込むのが良いだろう。問題は逃げる方法だ。
「他の部屋は全部探したから…後は、ここだけか…。」
やはり、1番に思いつくのは玲次達に連絡する事で、スマホの存在だ。こんな首輪付けて行くのも気がひけるが…。兎に角、煌が手元に置いてると思うんだよな…。
「虎穴には入らずんば虎子を得ず…だな。」
中に居るのは、虎よりも怖い動物だけど…。
俺はハァとため息をつき、ドアに耳をつけて中の様子を探った。昨日の今日で、折角今日はエロい事免除されているのに、墓穴を掘る事になったら困るからな。見つかりたくはない。
(……寝てるかな。)
静かにドアを開けて覗く。ベッドが膨らんでおり、寝息が聞こえる。寝ている。俺はそろりそろりと忍び足で部屋に入った。
(あ!)
あった!ベットのヘッドボードに置かれている。暗くて分かりづらいけど、2つあるからどちらかは俺のだろう。……煌の前で、俺にはプライバシーもなんもあったもんじゃないな…。
俺はそろりと煌のベッドに近づいた。
「……」
メリハリのある彫りの深い顔が、薄暗い部屋では彫刻のようだった。思わず見入ってしまう。しかし今はやるべき事に集中だ。
(ぐっ、何故、こんなデカイベッドに…。)
俺はヘッドボードに手を伸ばし、ぷるぷると震える。届きそうで…届かない。それもこれも、煌のベッドが馬鹿デカイせいだ。
(仕方ない…)
俺はもう一歩、ベッド脇に近づいた。
(うぅ、)
近くで見ると…やっぱ煌には変な迫力がある。……怖い…。
ギッ
(……!)
ギクリとして後ろを振り返ると、俺が緩く閉めたドアが開く音だった。なんだ…びっくり
「なにしてんだ、お前。」
「!!」
ふーと息を吐き振り返ると、俺の伸ばした手の下から煌の声がした。寝起き独特のかすれた低音だった。見るとぼんやりとした三白眼の煌の目が、俺を見ている。
「……部屋、間違いました…。起こしてごめん。俺は戻るから、どうぞごゆっゆくーー!あっ、」
適当に話をつけて戻ろうとすると、手を引かれた。そのままアリ地獄の様にベットに引き込まれる。
「今日ぐらいは見逃してやるつもりだったが、そんなに待てないなら仕方ない…。相手をしてやる。」
「え?いや…あの、結構です……。」
煌は俺の体を自分の上に乗せ体に手を回してくる。
「いや、あのっ……ちよっ、やめて…。」
「……」
「ねぇ!!ちょっと!やめろって!!」
「………」
煌の手がスウェットの下にかかり、俺は何とかもがいて体を煌から離し声を荒げた。煌が不機嫌そうに俺を見上げる。
……なんだよ…、こ、怖い顔すんなよ…。
大体、最近の煌はずっと不機嫌で謎だ。
「ムカつくよな。」
「え?」
「勝手に自分のものに手を出されたら腹が立つ。」
「……」
煌の手が、暴れて僅かに素肌が露出した俺の腰を撫でるので、何となく分かった。玲次の事か。
「俺はこっちの世界のルールや常識なんて知ったこっちゃないし、」
「……」
「どうしてやろうか。」
「………」
「なぁ?」
煌は俺の腰からその下にかけてをゆるゆると撫でた。その目が鋭さを増していく。俺は煌の上で四つん這いのまま、触られても動く事も出来ずに息をのんだ。マウントをとっているのは俺の方なのに…。
「……………あ……、せ、セックス、させて下さい。」
煌の目がすっと細くなる。
「ふーん…」
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