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第32話
「あぁ、本当に…、帰ってこれた…!!」
感無量!冬夜と柊に捕まったせいで、あの家を出れる迄に時間がかかったが、遂に俺は玲次の家に帰ってこれた…!もう夜だけど…。
とにかく、俺は玲次の家の前で喜びに震えた。
「日向…!」
「あ、玲次!!」
俺が近づき玄関の灯が灯ったのを見て、玲次が玄関から走り寄ってくる。そしてそのままぎゅっと抱きしめられる。心地よさと安心感で、体の力がずっと抜けた。
「日向…!良かった……良かった………!!」
「玲次…、心配かけてごめん…。」
玲次は心底ホッとしたという様子だった。抱きしめる力が強くて、痛いくらいだ。
「日向…、とりあえず、中に入るか。」
「うん。」
家に入ると玲次は何も言わずに、牛乳を温めて出してくれた。俺の好物だ。
「日向、それ…。」
「あ、うん…。ごめん……。」
玲次が指したのは俺の首だ。首輪は流石に取られたが、あの噛みつき防止のベルトは巻かれたままだ。必死に取ろうとするが、全然とれそうにない。冬夜お手製なのだろう。
「でも、こんなの、大した意味ないから!」
「そうだな……。」
俺は努めて明るく言うが、玲次は浮かない顔をした。俺としては、それよりももう一個の方が気になる。バレないか気が気でない。あと……やられた回数は浮気よりも酷い。
「日向、疲れただろ。ご飯作るから、今日はゆっくりしてな。」
玲次はそれ以上突っ込んで聞いてこず、ご飯を作りにキッチンに向かった。そっとしておいてくれる事が、何よりの優しさだと思った。曖昧なままで申し訳ないが、少し落ち着きたかった。
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「お前ら、帰れ。」
「えー、なんでなんでー?」
「クロ、側にいたい。」
仕事に行くと、真っ先にコイツらが群がってきた。お陰で仕事がし辛い。廃品の整理するが、全然作業が進まない。午前中に植木の水やりまでしたいのに、間に合うかな…。
「おいクロ、暑いから室内の作業をしろ。」
「……なら、来るなよ…。」
「お前、俺にそんな事を言える立場か?俺が見張らないと、お前襲われるぞ。」
「………」
奥の日陰から煌が偉そうに踏ん反り返り、指図してくる。しかし…確かに煌の言うとおり、煌の目がないと何されるか分かったものではない。そういう意味では、いて貰わないとだが…。何で煌はいつもこんなに偉そうなんだよ。
「クロ、手伝う?」
「わ…っ!!い、いいっ!」
「いいの?」
ガタンッと、俺が持っていた机が大きな音をたて、床に落ちた。柊が後ろから俺に覆い被さり、大きな手を重ねてきたからだ。俺はすっぽりと大きな体に包まれ、反射的に身構えてしまう。そんな俺の反応に何故か気を良くしたのか、柊は面白がって中々離れない。
「早く終わらせて、早く遊ぼ。」
「こらこらー!仕事でのセクハラは禁止ー。」
冬夜が柊を引き剥がそうとするが、びくともしない。
「柊…お前、吸盤でも付いてんのかよ…。」
「……暑い…。」
……暑い…本当、離れて欲しい。冬夜が呆れてブツブツと不満を漏らした。
「暑っ…、柊、本当離れて、暑い…。」
「んー。」
俺の声に、柊は後からすりすりと頭を擦り付け答えた。離れる気ないだろ…。本当、犬だな。仕方ないので、無視して俺は柊を引きずるようにして仕事を続けた。
暑いし、重いし……最悪だ…。仕事がいつもの何倍も大変だ。コイツらが現れて、本当にいい事ない。
「しかし、この感じ…既視感……いや、そうか。ははっ、あっちで本当の学校行ってた頃みたいだなー。」
「……あー…」
確かに、昔はこんなだったな。何処からか湧いて出て来て、やたらベタベタとくっつくコイツら…。変な事もされていなかったので、過度なボディタッチに特に何も感じなかった。クソ雑魚共に虐められはしたけど、父親と過ごす時間もあり幸せな日々だったような気がする。少なくとも、性欲処理に付き合わされる今よりかは。懐かしい。
「あのな、クロ…ふっ、はははっ、毎度クロの運動着盗んでたの、クラスの奴じゃなくて柊だったから。ウケるだろ!」
………ウケねー。
冬夜が可笑しくて堪らないという様に笑い、急に暴露しだした。
「柊、お前…、ふざけんなよ!」
「いてっ!」
俺は勢いよく振り向き、柊を叩いた。柊がヘラヘラしながら、痛くなさそうに声をあげる。
「うち、金無いんだから、毎度地味に大変だったんだぞっ!!」
俺のバイト代、ほぼ消えた学校用品に費やされていた。それを思うと、腹が立つ。……まさか…、他にも盗ってないよな?柊相手だと、怖くて聞く気も削がれる。
「ハァッー、もー、疲れた…。」
「じゃぁ、一緒に休もうよー。んー…はぁ……クロの匂い…。」
俺がどさりと床に座り込むと、柊がまた覆いかぶさり、俺の首元に顔を埋める。結局また、重た暑い…。あと、この馬鹿犬のブツが腰に当たっている気がする。
え、てか、勃ってんの?……怖っっ。
「………クロ、来い。」
「あぁ…はい…。」
そんな疲弊した俺を気遣いもせず、煌が顎を使い俺を呼びつける。本当に何なんだ。この何様俺様煌様野郎は…。俺は渋々と柊を引っ付けたまま、煌に近寄った。
「……」
「っ!!」
「お!」
ベリッ!!と音がしそうな勢いで、煌が俺から柊を引き剥がした。
「おお!身軽!涼しい!!」
俺はその隙にささっと、煌と柊から離れた。
「…むー、煌……。」
「柊、やり過ぎだ。」
「ははっ、やきもち王様。」
本当にコイツらは、成長しないなぁ…。俺はさっさと、この隙に仕事を進めよう。柊が煌にぶつくさ文句を垂れている隙に、俺は仕事を進めた。
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