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第33話

「日向、お帰り。」 「玲次、ただいま!」 学校ではあんなだが、今の俺には安らげる場所がある。それだけが心の救いだ。 帰宅すると、玲次が優しい笑顔で俺を迎えてくれた。 「日向、ご飯出来てるけど、先に風呂入る?」 「いや、それなら、先に食べる。いつもありがとう。」 「……ふっ。いいや。食べよう。」 俺が笑顔で礼を告げると、玲次はクスリと笑ってリビングに向かった。 「わー!美味しそう。」 「日向、何か飲むか?酒?」 「ん、ありがとう。」 今日は、玲次にしては珍しく肉料理だ。でも美味しそう。とくとくと、玲次が俺のグラスに赤ワインを注いだ。 ------ 「玲次…本当、いつもありがとう。」 「?ははっ、何回もそれ言うんだ?」 夜、玲次の部屋で一緒に寝ている時、俺は玲次にお礼を伝えた。玲次が不思議そうに笑う。 「だって、いつもご飯作ってくれて、一緒に寝てくれて…。」 「……」 そう、俺が家に戻ってから、ほぼ毎晩一緒に寝ている。どこからともなく煌達が出てきそうで怖かったからだ。でも絶対に行為には及ばない。ただ、一緒に寝るだけ。 「ははっ、いいよ。でもさ」 「ん?」 玲次は笑い、急に俺を抱きしめた。 「これだけ、抱きしめるのだけ…させて。」 「ん、これって……ふふっ、むしろ嬉しい。」 「………」 これだけと言って、玲次は俺を抱き枕の様に抱きしめた。けど、それは俺にとっても嬉しい行為だ。最後まで出来ないから刺激しても申し訳ないと、ベットで余り触れないようにしていたから。俺が照れたように歯に噛んで笑い、抱きしめ返すと、玲次は少し驚いたような顔をした後に嬉しそうに目を細めた。 「日向、俺は…セックスなんてしなくてもいい。ただ、これだけで良いんだ。」 「うん…。」 「日向……好きだ。」 「……俺も。」 「好き。ずっと…こうしてたい。」 「うん。」 「こうしてる間は、日向は俺だけのものって……そんな感じがして、嬉しい。」 「……うん。」 玲次は俺の声を聞くと、嬉しそうに笑った。そして優しく俺を引き上げ、キスをしてくれた。 「ん。俺も、こうやって、抱きしめてもらうのが好き。」 「…そうか…。」 そして今度は、俺から玲次を抱きしめた。 「ちょっと……毎日ハードだなって、辛いと思う事をあるけど、こうやって、1日の終わりに安心出来る人の肌に触れて、抱きしめられると、それだけでいい。」 「………」 「ははっ、張ってた気も抜けて、力も抜けて、安眠出来そう。」 「………日向………。」 「え?」 玲次は再び俺を抱きしめた。先ほどより強い。玲次の胸に俺の顔は沈み込み、玲次の顔は見えない。ただ玲次の声は酷く苦し気だった。 「何?ははっ、どうしたの?」 「………」 玲次はそれ以上何も言わなかった。少し開きかけた口を、玲次はきゅっと閉じた。 「……何があっても、俺は、日向が好き。クロでも、日向でも、関係ない。俺は好きなんだ…。」 「……うん。ありがとう…。俺も。俺も好きだよ。玲次が、好き。」 「…………そうか…。」 「玲次の匂い……好き…。安心する…。」 「……ふっ、それは……本当かな?」 「本当だよ!だって現に今、なんか、凄く安心してる…。」 「…ふーん……。なら…良かった…。」 玲次の香りが心地よい。ポカポカとするのは体か、心か…。俺たちはそのまま、抱き合って眠りに落ちた。 ----- 「あ」 『クロ、来い。』 たった二言。それだけで俺の気持ちを下げられる。それは煌からの連絡だった。まぁ…そろそろ限界だと言えば、そうだったんだが…。気が重い。 「………」 いつもより幾分ダラダラと作業着を着替え、俺は更衣室を後にした。 煌が指定したのは、珍しく旧校舎の教室だった。まぁ、人気がないから、良いのかもしれないけど。 「……来ましたー…。」 「はっ、来てすぐに、不貞腐れるなよ。」 俺はどんよりとした雰囲気を隠さずに、教室のドアを開けた。旧校舎だからか、俺の気分なのか、空気が重たくてひんやりと冷たい。 教室の奥にはどっから持ち出したのか、ソファが置いてあり、そこにどかりと腰掛けた煌がいる。良かった……煌、1人だ。いや、良くないぞ。もはや基準が狂ってる。煌1人だから、旧校舎なのかな…。 「…本当、お前ら元気だな。」 「……」 俺が軽口をたたくと、腰掛けていた無言で煌がすっと立ち上がり、近づいてくる。え、ちょっ…な、何? 「な……っっふっ!」 気丈に振る舞わらないといけないのに、急に近く煌に俺は狼狽た。そして近寄ったかと思うと、煌は俺の下半身に手を伸ばしゆるゆると刺激した。俺は堪らず、煌の手を止めるが無駄な抵抗の様だった。 「んっ、…ふっっ…っ」 「はっ、お前が、したいんだろ?」 「んんっ」 煌が俺の耳に口を寄せ、『お前が』と強調した。耳にかかる吐息が腰に響いた。だって…、コイツら…。 「これ…とって、出して、スッキリしたいだろ……。」 「……っ」 コツコツと、煌が俺の股間を弾いた。解放された日につけられたのは、貞操帯。俺は弾かれるその振動にすら、よろりとよろけた。煌を睨むが、鼻で笑われる。 「付き合ってやってるのは、寧ろ俺の方だ。」 「……」 「強請れよ。きちんと出来たら、してやってもいい。」 そう言い、煌またソファに戻りどかりと座った。俺はどうとも言えず、その場に佇んだ。 「なんだ、辞めるのか。それなら出て行け。」 「……」 「そうか。お前が出て行かないなら、俺はもう行く。」 「あっ、ちょっちょっっ!」 「………」 「……っ」 煌が立ち上がりさっさと俺を残して出て行こうとするので、俺はその手を掴んだ。煌のキツい目が俺を見据える。久しぶりの行為のせいか、煌の目がいつもの数段凄みを帯びている様に感じ、俺は息を呑んだ。 「あの……。や……やりたい……です…。」

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