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第34話

朝日が、目に染みる。 俺はのそりとベットを出て、腰を摩りながらリビングに向かった。 「日向、おはよう。」 「おはよう。」 「日向、昨日の夜は遅かった様だから、今朝はグラノーラーにしたが…魚とかも焼くか?」 「ありがとう。グラノーラだけで十分だよ。」 グラノーラは好きだ。グラノーラにかける牛乳も好きだし。なにより、腹にすっと収まるし。玲次はやはり、散々人のケツを酷使した翌朝にステーキ食わす鬼畜野郎とは違うな…。 (…昨日だって……怖かった…。) 最近何をそんなに怒っているのか、昨日は輪をかけて煌は威圧感があり、恐ろしかった。散々寸止めで我慢させられて、その間ずっとフェラさせられた。舌の感覚も無くなった頃やっと出させてもらったけど、その後が更に酷い。 「……はぁっ…」 俺はグラノーラをすくう手を止めてため息を吐いた。 もうやめろって言うのに、煌は聞いてくれなくて…。もう出来ないって言うのに無理矢理されて、俺は…人生初……も……漏らした……。煌には散々醜態を晒した。けど、流石にあのレベルは初めてだ…。大体あんな酷く攻め立てられたのも、初めてだったし。出る出るって訴えたのに……。最悪だ。 あー、今日も、また朝から顔合わせるんだろう。気まずい…。 「………日向、体…大丈夫か?」 「あ、…あー…、うん。大丈夫。」 「………そうか。」 そう言うも、玲次は尚も心配そうに俺を見る。 「キツいなら、休んだ方が良いぞ?もしくは、半休とか…。心配だから、俺も合わせて仕事休んで居れるし。」 「いやいや!大丈夫だって!気持ちは、ありがとう。」 「そうか……」 玲次はまだ依然として心配そうに俺を見ているが、俺は笑い返した。そもそも昨日の夜の事なんて、玲次には口が裂けても言えないしな…。 ------ 結局、職場には少し遅刻してしまった。 「……うぅ、腰痛い……」 「よぉ」 「!!!」 ガタンッッ 出た!更衣室に扉を開けた所で、後ろから煌の声がした。驚いて振り向ことしたが、そのまま背中を押されて誰もいない更衣室に押し込まれた。 「ははっ、何?震えてんの?お前にしては珍しいな…。」 後ろから強引に壁に押し付けられ、俺は標本の虫にでもなったかの様に、壁に縫い付けられた。項に煌の息がかかる。俺は思わず、昨晩の事を思い出して目を瞑り小さく震えた。そんな俺を見下ろして、煌は小馬鹿にした様に笑う。 「昨日仲良くしたばっかなのに、つれねーな。」 かがみ込んだ煌の鼻がするっと俺の項を這う。ゾクゾクとした感覚が、背筋を這い上がる。 「ふっ、旨そうな匂いさせて、震えるなよ。」 「……ふっ」 色気のある声で、俺の項に唇を当てたまま煌が言う。そして俺の耳に口を寄せ、まるで秘密の話をする様に続けた。 「なぁ…昨日した事…、された事、しーっかり、覚えとけよ。」 「……っ!」 言い終わると、耳にキスをされた。音が鼓膜に響く。 「もっ、もうっ、仕事にいく。離せっ!」 「ははっ、なら、待っててやるからさっさと着替えろよ。」 なんでや…。 煌は更衣室のベンチに腰掛けた。さっさと帰ってくれ…。そう言いたいが、言えるはずもなく、俺はのろのろと着替えた。 ----- 「おー、日向!……と、煌くん、おはよう。」 「圭人、おはよう。」 「……」 日向が帰って来てから数日経った。安心したのは束の間、俺はにっこりと、日向の後ろからこちらを睨める煌にも笑いかけた。日向に寄り付くものに毛を逆立てる猫みたいな煌みていると、口角が上がる。 「煌くんは、授業出なくていいの?」 「……ふんっ、」 「…とっ、…け、圭人!ごめん…もう、煌に構わなくていいよ。」 俺の問いかけに煌はツンと何も答えない。日向は俺が気を悪くしたら悪いと思ったんだろう、慌てて割って入って仲裁する。こんなの全然気にしないのに。寧ろ、煌は兄さんと同じ顔なのに子供っぽくて、そのギャップがかなり面白い。 「ははっ、いやいや…、面白くて割と俺、煌くん好きよ?」 邪険に扱われても、数日間一緒に過ごしてもいいくらい面白い。兄さんが、普通だったら、こんなやり取りもしたりしたのかなぁ…。喧嘩したり、日向を取り合ったり……そして仲直りして笑ったり。 「日向、今夜ご飯食べに行くね〜。兄さんにエンゲル係数高いもの用意させといて〜。」 「……あ、今夜……うん。…俺、遅くなるかもだけど…、うん。分かった。伝えとく。」 「?」 日向の答えは歯切れが悪い。その後ろから、俺をじっと睨む煌。 「クロ、もう行くぞ。」 「……圭人、じゃぁ、また。」 「うん。」 煌の手に見えない鎖が見える。それはぐるりと、日向の首に回っている。 「……」 兄さんは知ってるのかな。……知らないで欲しい。知っていてそれを利用していたら…、もっと言えば、加担していたら……。 「…雨、降りそうだな。」 暗澹とする天気の下、どうとも動けず俺はポツリと呟いた。 だけど…そう……。俺は……俺は兄さんの事を、よく知っている。

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