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ブレイズ、みんなで竜介をお祝いする・3

 翌日。 「あ、いたいた竜介さん!」  本社の廊下を歩いていた竜介を発見し、俺はその背中に声をかけた。 「おお、亜利馬。どうした、今日は動画撮影の日だとか言ってなかったか」 「たった今終わって、今日はもうフリーですよ。竜介さんは?」 「俺もついさっき終わったんだ。これから大雅の写真撮影が終わるのを待って、あいつが終わったらいつものファミレスへ行く予定だが」  大雅は仕事中。なら、今がチャンスだ。 「あ、あの竜介さん。良かったら大雅を待つ間、会議室でちょっと話しませんか? 美味しいパウンドチョコケーキ買ってきたんです」  パウンドケーキの有名店「ロイヤルクラウン」の紙袋を見せると、甘党竜介の目がきらきらと輝いた。  会議室で向かい合って座り、早速二人してパウンドケーキに舌鼓を打つ。 「はあぁ、何これ美味しい。しっとりふわふわ、ハチミツが効いてますね」 「温かいお茶に合うな。流石は有名店なだけある」 「大雅の分も残しておかないと。これ絶対大雅も好きな味ですよね」  もくもくと食べているうちに一瞬目的を忘れかけたが、大雅の名前を出したところでそれに気付き、俺は竜介に問いかけた。 「竜介さんって、どんな人がタイプなんですか?」 「何だ、藪から棒に」 「ちょっと気になって。みんなに聞いてるんです」  そうだなぁ、と竜介がパウンドケーキを片手に宙を見つめる。 「やっぱり素直な奴と、よく食う奴だな」 「それって公式サイトに載ってたプロフのコメントと同じじゃないですか」 「そうさ、そのままの意味だ」  大雅は素直じゃないけれど、ある意味ではとても素直でもある。  大雅はよく食うけれど、付け合わせの野菜……特にブロッコリーとニンジンは必ず残す。 「……素直でよく食う人なら、誰でもいいってことですか?」 「そういう訳じゃないさ。好きなタイプと、実際に好きになる男は違う」 「で、でも竜介さんはモテるだろうし、常に選べる側の男なんじゃないかなって」 「俺の場合は、恋愛よりも他に優先することが多くてな。仕事や遊びで夢中になれることがあると、特に恋愛する気は起きないんだ。自分の中で『なくてはならないもの』をランク付けするとしたら、仕事、仲間・家族・猫、遊び、美味いもの、その下に恋愛かな」  何となく竜介が周りから頼られる理由が分かったような気がした。 「学生時代から今まで付き合った奴も何人かいるが、俺が他のことを優先するから結局は愛想をつかされてしまってな。どうやら俺は恋愛するのに向いていない頭の構造をしているらしいんだ。おかしいか?」 「全然おかしくないです。だって何に生きがいを見出すかは自由ですもん。何か世の中、結婚しない人とか恋人を作らない人って、変わり者だとか、本人に難ありって目で見られることが多いですけど……。俺、そんなの間違ってると思います。何に生きるかは人それぞれですもん」 「ははは。語るなぁ、亜利馬」  つい熱くなってしまった。  本題に入らないと。

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