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亜利馬、みんなのお兄ちゃんになる・2

 保父さんとか先生とか、そういのは凄く嬉しい。子供と遊ぶのは好きな方だし、普通に生きていたら先生なんて呼ばれることは一生ないはずの俺だから。 「わー、見てみて! 俺、園児服なんて着たの幼稚園以来だよ」 「何言ってんだ獅琉。テンション上がり過ぎて意味不明なこと言ってんぞ」  Tシャツに膝丈のズボン、白いソックス、上履き。その上に青いスモック。  黄色い斜め掛け鞄、黄色い帽子……。 「……みんな、引くくらい幼稚園児ですね」  獅琉も潤歩も大雅も竜介も、みんな同じ恰好だ。六本木にある竜介の豪邸に、大きな園児が四人。かつてないほど異様な光景である。 「亜利馬、一人だけ普段着でずるい」  帽子を被った大雅が体育座りをしたまま、目を細めて俺を見上げた。 「っ……、た、大雅は可愛いねぇ……。何だろこの、底から湧き上がってくる感情」 「はっはっは、それが父性というものかもしれないな!」  竜介が腰に手をあてて笑った。正直言って、この四人の中では竜介が一番似合っていない。とにかくガタイが良過ぎるからだ。──もちろん、この場合の「似合っていない」は誉め言葉なのだけど。 「おいてめぇ、先生のくせに大雅ばっか贔屓してんじゃねえぞコラ」  意外にも一番似合っているのは潤歩だった。悪ガキっぷりが全面に出ていてあまり違和感がなく、鼻の上の絆創膏もそれっぽい雰囲気を醸し出している。 「おー、よちよち。大雅に嫉妬しちゃうなんて、ウルフ君は甘えん坊でしゅね」 「うっぜぇ。……獅琉、お前こそ淫乱保父に向いてんじゃねえの?」 「淫乱保父って何か素敵な響きだね! 保護者のパパとか他の先生とかを喰いまくり」 「駄目だコリャ」  今日のコレは別に獅琉の企画が本当に通った訳ではなく、「通った時の予行演習」というよく分からない名目で行なわれているものだ。  こういう時にいつも竜介の家を借りることになって申し訳ないが、シロとクロに新入りの赤ちゃん猫ミケとたっぷり遊べるから俺としては嬉しかった。……この後の「予行演習」が無ければの話だけど。 「亜利馬は俺達よりずっとお兄さんなんだから、ちゃんと俺達のお世話しないと駄目だよ。ちなみにもう始まってるからね」 「ええっ、こんなに大きな子供を四人もお世話できませんよ」 「亜利馬、お腹空いた」 「亜利馬、トイレ行きたい」 「亜利馬、眠くなってきた」 「亜利馬、遊んで」 「いっぺんに言わないで下さい!」  どうやら彼らはゲーム感覚で俺を困らせようとしているらしい。  それならばと、俺は四人の前に立って腕組みをした。 「お世話する代わりに、みんなは『亜利馬』じゃなくて、『お兄さん』て呼んで下さいよっ。それか『亜利馬先生』ですね!」 「はーい」  四人がその気なら俺だって受けて立つ。 「……ふふ」  今こそやられ役の逆襲だ。

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