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ブレイズ、素敵な冬休み!・5
「うんまぁい!」
カニだしが効いた熱々の鍋。牛も豚も野菜もたっぷりで、白飯が止まらない。
「肉カニ追加! ビールも!」
「俺もビール!」
「大雅、ちゃんとカニ食えてるか?」
「……全然間に合わない」
一つの鍋に五人の男が群がると、どうしても瞬殺で肉とカニが消えて行く。おっとりした大雅が肉を一枚食べ終わる間に、他の四人は既に次の分を自分の皿に取っているのだ。
「こればかりは個々の戦いだからな!」
潤歩がビールをあおり、プハーと気持ち良さそうに息を吐いた。頼みの綱の竜介も既に相当酒が入っているから、大雅の面倒を見ることが出来そうにない。
そういう訳で隣に座っていた俺が大雅の分も皿に取ってやることになった。その他にも店員さんに追加注文をして、空になったグラスや皿を端っこに寄せて、皆のドリンクの残り具合も確認する。
普段は末っ子、こういう時は下っ端。俺はそんな立ち位置なのだ。
「鍋美味しかったねぇ! 温泉でも鍋でも温まって、贅沢だよね」
「はぁ、ほんと幸せです。このままぐっすり……」
部屋に着くなり畳に転がる俺達。スノーボードの疲れと体が温まったのと満腹になったのとで、俺ももう眠ってしまいそうだ。
「亜利馬、布団敷け」
「えぇっ、……いいですけど、……ていうか皆さん、ちゃんと後でトランプしてくださいよ? 俺ちゃんと持って来たんですから」
「するする」
「えーと、じゃあ零時前くらいに起きるようにしようか。結構寝れるね」
獅琉がスマホのタイマーをセットする横で、せっせと布団を敷いて行く俺。既に鼾をかいている竜介に、その横で仰向けになりうとうとしている大雅と潤歩。
「ほら、布団敷いたからコッチで寝てください」
「んん……」
ずりずりと体を動かしながら布団に潜り込む先輩達。明かりを消して俺も布団に入り、その冷やりとした気持ち良い柔らかさにうっとりと微笑んだ。
……一瞬だけ落ちた感覚があって、すぐに肩を揺さぶられた。
「え……? 何、どうしたんですか……」
「亜利馬、もう零時だよ」
「えっ、もう……?」
あの一瞬で三時間以上経っていたことに驚愕し、煌々と灯る部屋の電気に目を細める。
「トランプやろう、亜利馬」
「はい……出しますね、……ちょっと待ってください」
見れば俺以外の四人は既に起きていて、準備万端で俺を待っているらしかった。まだ頭が回らないけれど、俺のリクエストをみんなで叶えてくれるというのだからいつまでもボヤけていられない。
「トランプなんて久々だなぁ」
「俺も。成人して初めてやるかもしんねえ」
竜介と潤歩は冷蔵庫から出したビールを飲んでいて、獅琉と大雅はポテトチップを食べている。俺はまだ若干ぼんやりしながらカードを切り、「何やりますか」と四人に聞いた。
「亜利馬は何がやりたい?」
「うーん、神経衰弱とか得意ですけど」
「ハッ!」
潤歩が小馬鹿にしたように嗤い、浴衣が捲れるのも気にせず片膝を立ててビールをあおった。
「そのちっこい頭で何言ってんだ」
「………」
潤歩は知らない。何の取柄もないチビの俺が、唯一「記憶力の良さ」だけは得意としているということを。
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