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亜利馬、人生最高の1日・4

「俺の大事な亜利馬、覚えていますか? あれはまだ俺達が子供の頃、よく互いの家に泊まって夜遅くまでお菓子を食べながら、色々な話をしたね」 「………」 「将来の夢を話していた時、亜利馬は一度だけ『アイドルになりたい』って言ったね。その時は何言ってんだコイツと思ったけれど、今の亜利馬は立派にその夢を叶えてると思います。大勢のスタッフさんや仲間達、ファンの人達から誕生日をお祝いしてもらえるって、なかなかないことだよ。歌って踊る仕事じゃなくても、亜利馬はたくさんの人から愛されてる。それだけは自信を持って良いことだと思います」 「有栖……」 「──その翌日に二人しておねしょをして、『寝る前にジュース飲んだらトイレ行かんかいな!』って、亜利馬のママに叱られたよね。二人で泣いちゃったけど、実を言うとあれは俺だけのおねしょだったんだ」 「へ?」 「一人だけ叱られるのが嫌だったから、寝てる亜利馬のパンツにコップで水をかけたってこと。亜利馬は疑うことなくおねしょをしたと思い込んで、俺と二人で叱られてくれた。あの時ほど亜利馬を愛おしく思ったことはないよ。ごめんね」 「………」 「それから小学校の時に、海で亜利馬のパンツを脱がしてごめんね。あと遠足の時、ズボン脱がしてごめんね。それとトイレで──」  俺は無言で動画の停止ボタンを押した。 「……ありがとう、有栖」 「トイレで何があったか気になるんだけどォ」  潤歩が不満げに言ったが、俺は首を横に振って「ケーキ食べましょう!」と棚から包丁を取り出した。 「その包丁で有栖を刺しに行くつもりじゃ……」 「そんな訳ないでしょ、大雅っ」  十九本のろうそくが立てられた、大きな長方形のショートケーキ。ハッピーバースデーの歌を歌ってもらって、思い切りろうそくの火を吹き消す。拍手と歓声。嬉しくて笑いっぱなしだ。 「プレゼント開封動画だよ!」  庵治さんと雄二さんからのプレゼントは、ちょっとお高めのヘアドライヤーとワックスのセットだった。ヘアメイクアーティストの雄二さんらしいセンスだ。 「前にこのワックス気に入ってくれたでしょ。亜利馬くんの毛質に合わせたものをオーダーメイドで作ってもらったんだ」 「うわ、ありがとうございます!」 「俺からはこれだ。つまらない物だが」  山野さんがくれたのは、実に山野さんらしいチョイスのスーツ一式だった。派手なカッコいいものではなく、フォーマルなちゃんとしたスーツだが……タグのブランド名を見て思わず腰を抜かしそうになった。 「えぇっ! 本当にもらっていいんですか?」 「亜利馬もそろそろ一着くらいは必要だからな」 「そうそう、俺達も去年の誕生日にもらったよね。竜介は一昨年だっけ。大雅もだよね?」 「……俺も前にもらった。五人お揃い」 「あ、ありがとうございます……!」  ケンさんは俺が欲しかったアメコミヒーローのフィギュアを、そしてブレイズの皆はそれぞれ一つずつデカい紙袋をくれた。中を覗くと大小色々なプレゼントが入っていて、全部開けるのは相当な時間がかかりそうだ。 「じゃあ動画では、代表して『潤歩袋』を開けてみようか」

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