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カフェ・レニティフ

 駅から歩いて十五分。  住宅街のど真ん中。  おまけに駅からの道は上り坂。  そのカフェはそんな不便な場所にある。  観光客や、カフェ巡りをするような、ある意味、賑やかしの客相手ではなく、近所のひとたちや地元のひとたちを相手に営業している喫茶店。  そう、カフェというより喫茶店、という名前が近いかもしれない。  見た目は洋風。  木造で壁は漆喰。  それなりに年月が経っている建物なので、少々古びてはいるが、それが逆にカフェという店の味わいになっていた。  そんな建物の一階が店だが、二階も存在する。  ただし客は入れない場所。店のスタッフの居住区だ。寝室がひとつ、リビングがひとつ、ほかにはキッチンとバストイレくらいしかない、こぢんまりとした『家』。  寝室がひとつしかない理由。そんなことは当たり前のように、ひとつのベッドに一緒に寝るような関係であるからだ。  男同士ではあるが、籍を入れて同性婚をしている関係なのだから。だからこの店は夫婦経営のたぐいということになるのだろう。男二人できりもりしている小さな店だ。  カフェ『レニティフ』。  ヒロこと、相沢 弘樹(あいざわ ひろき)がキッチン担当。  ユウこと、瀬戸内 游太(せとうち ゆうた)が飲み物とホール担当。  ざっくり分けてしまえばそのように受け持ちを分担していた。  このような分担をしているのは単純な理由。弘樹は飲み物もホールもこなせるのだが、游太の得意なことが偏っているためだ。  具体的には、料理系が壊滅という点。焼き菓子は焦がす……以前にまともな生地が作れなくてべちゃべちゃにしてしまうし、料理だって卵を割った時点でカラがほとんど中身に混入する有様。学生時代からそのことをよくよく知っていた弘樹は、游太に料理を担当させる気は、はなからなかったようだ。  しかし游太とてなにもできないということはない。  お茶を淹れること、コーヒーと紅茶を淹れることに関しては弘樹の上を行く。バリスタとしては一流の部類に入る、日本バリスタ協会のバリスタレベル3を取得しているくらいだ。もっと大きく、もっと専門的な店を開いたり従事したりすることもできる腕前。おまけに手先が器用で非常に社交的な性格。店内の飾りつけから接客まで、ホール担当としては非常に優秀なのである。  よって、きっちり分担を分けることで、カフェ・レニティフは上手く回っているといえる。

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