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恋のはじまり

 恋を自覚したのはもうだいぶ前になる。  高校二年生。青春真っ盛り。恋というのはきらきらとして綺麗な感情だったはずなのに、俺が感じたのは絶望だった。  何故って相手は『親友』だったんだから。  それも女の子が大好きなストレートの男だったんだから。  別に俺だってゲイというわけじゃない。  それまで男に恋をしたことなんてなかった。  俺は自分で言うのもなんだが、見た目は大変いい。あまり公言していないがドイツ人の血が四分の一、入っている。いわゆるクオーター。日本生まれ、日本育ちなのでドイツ語なんて単語くらいしか知らないし、喋れないけど。  髪、地毛は日本人の血が濃いためか普通に黒だが、瞳の色はドイツ人の祖母の血を引いたようで鮮やかな瑠璃色をしていた。だから璃緒(りお)、なんて『瑠璃』の字が入った名前をつけられたのだという。あまり男らしくないので気に入ってはいないのだが。  この瞳はちょっと持て余していたりする。小学生の頃は異端の眼で見られたし。  ただ、生来の明るくて人好きのする俺の気質がそれを補ってくれた。にこにこと話をして一緒に遊んだりちょっと助けてやったりすれば『なんだ、普通の男子じゃないか』と思ってもらえる。そのためにハブにされたことなどない。  ただ、確かに日本では異端ではあるので、はじめましてのときの説明もめんどくさい。特殊だと思われるのも本意ではないので。  なので中学に入るタイミングで、カラコンをつけるようになった。黒のカラコン。瑠璃の瞳を覆って、日本人のフツウの黒い瞳に見えるように。  仲良くなったやつだけに「実は俺、クオーターで」なんて話したものだ。  そう、その中学生時代。明るい性格で、タラシなんて呼ばれてしまうほど社交的な俺は中学生時代から、まぁモテたのは幼稚園時代からずっとであるが、本格的には中学生時代から、華やかにモテた。  女の子に困ったことなんてない。  童貞なんか、中学に入ってすぐに卒業したくらいだ。  付き合ったのは三ヵ月にも満たないくらいで、最早体目当てだったんじゃないかと思うほどの関係だったけれど、一応、名前や外見なんかは覚えている。  三年生の先輩女子。綺麗な女の子だった。  体も良かった。胸もデカかったし。当時の俺には少々刺激が強かったくらい。  決して派手というわけではなく、髪も校則通りに黒髪のままだったし、勉強も真面目にするタイプだったと思う。  でも中学に入りたての、まだまだコドモともいえる男子生徒に手を出すくらいにはいやらしいことが好きな、いわゆる淫靡なところがあったと思う。  彼女は今どうしているか、なんてたまに思ったりもするのだけど、ああいう性格だったのだ。きっと今でも適当に男を食っているのだと思う。  そんなことはともかく、中学時代で一番重要なのは親友だった。  親友、玲也は普通の、ごく普通の男子。勉強は苦手だが、俺と同じように割合明るくて社交的なタイプで友人は多かった。  それは今でもそうだ。アイツの周りには友人が多い。  ただ、女の子は別だった。惚れっぽいのでちょっとでもかわいいと思った子がいればすぐに「かわいい子がいてさ~」「告白してみるかな」なんて言うのだ。  でも何故か恋愛方面に関しては不器用なようで、アイツは上手くやってのけることができなくて。恋をした女の子にはフラれ続きだった。見た目は決して悪くないのに。  当時は校則通り染めておらずに黒髪だったけれど、ふわふわの髪質のそれは毎日ワックスで整えられていたし、眉も服も気を使っていた。顔立ちもめちゃくちゃイケメンではないけれど、少なくともブサイクでもない。たれ目がちではあるけれど、それだって人懐っこさを感じさせて悪くはないものだ。  だから単純に『やり方が悪い』とか『不器用』なのであったのだと思う。  俺はそんなアイツにアドバイスしたり、慰めたり、ときには「童貞のくせに」なんてからかったり。そういう親友関係。だった。  でもそれも高校二年生で、がらりと変わってしまった。

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