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合コンにて

「おーおー、お迎えご苦労さん」 「ったくエラソーに。ほら、行くぞ。みんな待たせてんだから」  土曜日。新宿駅の西口で俺は玲也と待ち合わせをしていた。  時間は六時半を少し過ぎていた。バイトが少々長引いたのだ。  新宿駅は割合良く使う駅であるのでそれほど待ち合わせには困らなかった。  あっさり玲也と合流して図々しくも言った俺に、玲也はやはり同じように、はぁ、とため息をついて肩で俺を促したのだった。 「何系? イタリアン? 焼き鳥? 鍋?」  横に並んで飲み屋街へ入りながら俺は尋ねた。今日の会場だ。 「なんかシャレてる、ラクレットとかいうやつが美味いって店。なんか、餃子にチーズをかけるんだとさ。女子が嬉々として選んでた」 「おー。そりゃ純粋に美味そうじゃん。そんなシャレてる店、お前が選んだの」 「や、幹事のヤツ。同じクラスの竹本……」  玲也が挙げた、ほかの男の名前。たまに聞く、玲也の通う専門学校の同級生。一度会ったこともある。  俺はこれから会う女子よりも、むしろそちらのほうに嫉妬を覚えてしまう。  学校の違う俺とは違って毎日のように玲也と過ごせるヤツ。  そしてやはり自分に呆れるのだった。こんなの完全にゲイじゃないか。  とはいえ、俺は玲也以外の男と付き合おうとは思わなかった。実のところ、玲也への恋心を自覚してからも何人かと付き合っている。  でもそれは全部女の子だ。男に興味はなかった。  ただ、誰かと付き合ったのは空虚さが耐えがたかったのだ。  認めたくないけれど、寂しかった、のだと思う。  寂しくはあったけれど、玲也に想いを伝える気なんて、最初からなかった。  俺にとっては親友でいることのほうが、友という名の付く関係でいいから近くにいることのほうがずっと大切だったから。それをなくしてしまうくらいなら、告白して気まずくなるなんて馬鹿なことはするものか。  押し殺せばいいんだ。  よそに目を向ければいいんだ。  そう思って。  でもやっぱり俺はほかの女の子に溺れきることができなくて、付き合っては捨て、もしくは捨てられを繰り返した。  そしてそのうち、『別の方法』に走るようになったのだけど。 「お、ここ、ここ」  玲也が指した店、というか看板はそれ自体がシャレていた。黒板に白のチョークでイラスト付きで店の名前とメニューが書いてある。いかにも女子が好きそうな店だ。どうやら地下にある模様。 「タダイマー。こいつ、俺の親友。リオ」  階段を下りて、店に入って、迷わず一室へ入った玲也が俺を紹介した。俺も挨拶する。 「どもー。荻浦 璃緒です」  俺を見て女子が一斉に沸き立つのがわかった。  そりゃ、見た目いいもんな。爽やかに取り繕ってるし。バイト上がりだから地味めの服だったけど、それなりにいいもの選んで着てきたし。  しかし見たところ、女子のレベルもそこそこ良かった。平均レベルではあるが、きちんとした身なりの子ばかりだ。 「よっす。えーと、前に会ったよな。覚えてる? 竹本だけど」  入り口近くに座っていた、今日の幹事の男が声をかけてきた。見た目はまぁまぁのやつだ。イケメンでもブサイクでもない、平均レベルの男子。 「ああ。いつも玲也が世話になってますー」 「おい! 俺が迷惑かけてるみたいに言うなよ!」  あはは、とその場に愛想笑いが溢れた。  また俺は内心ため息をつく。こんな牽制するようなこと。茶化しはしたけど。 「じゃ、メンツも揃ったし自己紹介しますか! 男子からにするか。俺から……」  竹本が、ぱん、と手を叩いて場を鎮める。合コン定番の簡単な自己紹介。俺は最初に名乗ってしまったけど、一応名前と学校、あと音楽が好きですだの適当なことを言っておく。  一通り自己紹介も済んだそのとき、テーブルにラクレットやらがきた。  女子が楽しそうな歓声を上げて、スマホでパシャパシャと写真を撮る。ツイッターかインスタにでもあげるんだろう。  俺も一応撮っとくか。便乗して一枚撮った。適当にスタンプをくっつけて投稿する。それを見た女子の一人が俺に話しかけてきた。 「荻浦くん、だっけ。ツイッターやってるの? 繋がらない?」  おい、まだ俺がこの部屋に入って十数分だぞ。ちょっと呆れるくらいの積極性だった。既に俺にロックオンしたらしい。

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