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アフターは二人
「おい、マジで良かったのかよ」
玲也が未練がましく言う。自分が持ち帰る立場なんかじゃなかったくせに。
「気が向かなかったんだよ」
俺は適当にいなす。多大なる満足感を感じながら。
女子たちを一応駅まで送ったあと。
俺は玲也と二人で西口をふらふらしていた。
女子たちとの解散後に、当たり前のように竹本たち男子から文句を散々ぶつけられた。選り好み激しいだの、偏食だの、贅沢だの。
うるせぇ、としか思わなかったが「飲みすぎて勃つ気しなかったから」なんて下ネタで誤魔化しておく。
「じゃ、帰るか玲也」
先手を打って、それが当たり前だとばかり言いきった。
『二人で』という表現で。
玲也は「お、おう?」なんて受け入れてくれたけれど、まるで竹本たちから奪い取るようだった、と思う。そこまであからさまになってしまったのは、酔っていたせいもあったのだろう。
それでも玲也はなにも疑うことなどなかったようだ。いっそ愚かなまでに俺についてきた。高校が同じとはいえ、今住んでいる場所は、近くはないのに。
俺たちの出身は神奈川のはじっこ。俺は高校卒業と同時に都内に一人暮らしをしていたが、玲也は今も実家で暮らしている。
勿論ヤツだって一人暮らし希望だったが、進路として決まった専門学校が都内にあるとはいえ、神奈川からではじゅうぶん通学可能圏内。「一時間で行けるでしょとか言われた」なんてしょぼくれていた。
バイトをしたところで遊ぶ金くらいしか稼げない学生の身では、オヤにそう言われてしまえば「ハイわかりました」と言うしかないものだ。
俺のオヤは放任主義というわけではないがそういうところは緩いので、俺が「一人暮らししたい」といえばあっさり手放してくれた。有難いことだ。
そしてそういう事情で俺にとっては嬉しい事案であるのだが、玲也は俺のマンションで過ごすことも割合あったといえる。少なくとも一ヵ月に二、三度は泊まりにくるくらいには。別になにも起こりやしないけど。
「お前はこっちな」と、毎回俺が放り投げる薄っぺらな客用布団で玲也が、いびきをかいていてくれるだけで、俺は嬉しかった。
はじめの頃……俺が一人暮らしをはじめてすぐの頃は、緊張で眠れなかったけれど。二人きりで、同じ部屋で眠るのだ。もしやなにか起こるのではないか、などありもしない期待を抱いてしまって。
「お前でいいから抱かせてくれ」とか襲ってくれるとか。
もう一歩ランクアップして「実はお前が好きなんだ」と言ってくれるとか。
でもそんなことは当たり前のように起こりやしなかった。
俺の気持ちなど知ることのない玲也は毎回爆睡であったし、俺は理不尽にもそれに不満を覚えるのであった。今でも多少は感じてしまう、その不満。
今夜もそうなんねぇかな、なんて思いながら俺たちは直帰もなんだとゲーセンだの遅くまでやっている本屋だのを覗いて歩いた。
勿論期待していた。玲也が俺を『持ち帰って』くれるのをだ。
別に食ってくれなくてもいい。一緒にいたいだけだ。
でも俺のほうから「泊まってけよ」とは言えないのだった。
本当に臆病だと思う。好きだと言えないにしても、「人恋しいから泊まってってくれよ」くらいは言ったって不自然じゃないだろうに。そんなことすら口に出せない。
カノジョだった女子や、今日の千紗のようなアプローチしてきた女子になら簡単に言えてしまうのに。まったく、俺は玲也に対してのみ、ピュア極まりない気持ちになってしまうのだった。そしてそんな自分が嫌でならない。
「あー、もう帰んのめんどくせーや。お前んち泊まってっていいか?」
今日は俺にとってラッキーデーらしい。玲也はそう言ってくれた。
だらだら街中を歩きまわるのも飽きたようだ。そして週末で混みあう電車に乗るのも億劫、と。
合コンも(俺にとって)うまく終わった。おまけに泊まっていってくれるのだ。なにもなかろうと一緒にいてくれるのだ。
なるべく顔に出ないように気をつけつつ俺は、「いいけど宿代にアイス奢れよ」なんて言っておく。それが自然だろう。親友として。
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