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バレた秘密

「……オマタセ」  玲也はしっかり入り口にいた。それもスタッフ用裏口にいるという徹底ぶり。今度こそ出待ち、だ。  信用されていないのかと思ってしまうが、そんなことより玲也の視線から逃げたくて仕方なかった。  でも逃げられやしないので俺は素直に出てきて、お待たせと向き合ったわけ。 「おう。オツカレ」  なのに玲也は妙に落ち着いた声で言って、俺にコンビニのビニール袋を突き出した。 「差し入れ。腹、減ったろ」 「あ、……りがと」  なにかくれるらしい。ちょっと重さのあるそれには、缶コーヒーと肉まんが入っていた。  缶コーヒーはホット、まだあつあつ。肉まんは少しぬるくなっていたが、まだ十分にあたたかい。  涙が出そうになった。まるで玲也に受け入れられたように感じてしまって。そんなことはないのに。  いつもなにかを奢られたときのように取り出して、コーヒーを開けて、ひとくち。微糖のコーヒーの甘さが染み入った。疲れた体にも、緊張した心にも。 「どっか入る? 肉まんじゃたりねぇだろ」 「や、いい」  どこぞの店で向かい合ってする話ではないと思った。  夜八時。腹は減っているが、肉まんひとつあれば少しは腹も落ち着く。 「じゃ……そこの公園とかでも」 「ああ」  音楽ショップ近くには公園がある。近いので自転車はそのまま置いていくことにして、俺たちはそこへと向かった。  向かううちに肉まんをかじる。少し冷めていて、むしろちょうどいい温度だった。  コーヒーと肉まん。コンビニでこれを玲也はどんな気持ちで買ったのだろう。 「お疲れさん」  ベンチに腰を落ち着けて、玲也は改めて言った。  俺は「ああ」と答えるしかない。  数秒、沈黙が落ちた。このあと玲也から言われることなどわかっている。  ぎゅっと、こっちはまだ少し中身が残っている缶コーヒーの缶を握りしめた。 「お前さ」  きた。  ぞくりと心臓が震える。  でも今度は逃げない。背中を向けて逃げるときじゃない。 「いつもああいうこと、してんの?」 「まぁ、……たまに」  返事は濁ってしまう。嘘ではないけれど。 「そう。……なんで、とか聞いていい?」  想定内の質問だった。それに対する返事は用意してきてある。 「そんなの当たり前だろ。金が欲しいからだよ」 「そんなわけないだろ」  納得されるはずもないと思ってはいたけれど。  玲也はそのとおり、俺の言葉をあっさり切り捨てた。  俺が金に困っていない、少なくともそれに不満はあまりないことくらいは知っているから。裕福な様子を見せたことはない、つもりだ。  コンビニバイトをしている玲也とは、多分『仕事』を別にしたら収入は同じくらい。奢り、奢られも今みたいにコーヒー一杯、肉まん一個、多くてもラーメン一杯だったりそのくらいだった。服だってあからさまにいいものを着ていないし、豪遊もしていない。  そんな俺が、「金目当て」なんて言ったところでリアリティなんてない。金なんて、使わなければなんの意味もない代物だから。 「もし、まだ俺とトモダチでいてくれんなら。そこは聞かないで」  もうひとつ、用意してきたこと。  俺の言いたいことと要求はそれだった。誤魔化す言葉が無い。  だって、無いだろう。  金目当てじゃないなら次にあるのは『寂しいから』だ。  言えるか、寂しいなんて。弱みをさらけ出すようなものだ。  それに、コイツの代わりに誰かに抱かれてるなんて。  男に抱かれながらする、コイツに抱かれる妄想が目的だなんて。  口が裂けても言えやしない。  だったらもう、シャットダウンするしかないだろう。 「……なんで」  当然のように玲也は不満だろう。俺に拒絶されたも同然だから。 「なんでも。……なんでも話さないとトモダチでいられないわけ?」 「そういうわけじゃ、……でも」  俺の言葉に玲也はちょっとだけ言い募ろうとしたようだが、すぐに切った。  友達でも隠しておきたい領域はあること。中学時代からそういうことは、不可侵の領域があることはお互いに思い知っている。  なんでも話すのが友達じゃない。  話したくないこと、話せないこと、秘密にしておきたいこと。  それをまだ知らなかった子供の頃にそれが原因で何回か喧嘩をして、ちょうどいい距離ややりかたを掴んだはずだった。  でもこれに関しては、おうわかった、なんて適用したくないらしい。 「……あのさ。ヘンなこと言っていいか」  いきなり切り口を変えられたので俺はちょっと驚いた。  このまま話題が続いていくものだと思ったので。

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