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空っぽの夜③
「すごく悦かった……」
たっぷり満たされて満足した。シーツにくるまりながら俺は客に擦り寄る。
たっぷりとした存在感、人肌はあたたかかった。かりそめでも。
しかもこのあたたかさは痛くも苦しくもない。こっちのほうがずっといいんじゃないか、なんて錯覚しそうになるほどラクだった。
「俺も良かったよ。またレオくんに会いたいな」
「ふふ、ありがとうございます。じゃ、また会ってください」
そんなピロートークをしばらくして、「じゃあこれ」と『お小遣い』をもらった。
「ありがとうございます!」
今日は三枚。プラスアルファはなし。要求しただけの枚数だけど、別にこれだけもらえればいいんだ。良い仕事だったし。
もう妄想はしなかった。玲也に抱かれる妄想なんて。頭にも浮かばない。
今の俺は、単に『男に抱かれるのが好きな、男子高生のレオ』だった。
そして気持ちとしてはそのとおりだったのだろう。その設定で俺はきちんと仕事ができたし、ある意味楽しむこともできた。
とにかくラクなのだ。余計なことを考えずに済むし、体も気持ちいいし、ひとのぬくもりも感じられるし、ついでに無為な時間を潰すこともできる。
そろそろ『インフルエンザ』なんて、日常から逃げている言い訳が限界になるときが近付いていることを感じながらも俺は毎夜、体を売った。
こんな夜を過ごしても、ほんとうの夜じゃない。
俺を満たしてくれる夜じゃない。
なのに俺は抜け出せない。
だってもうなくなってしまったのだ。
だったらほかのもので満たすしかないだろう?
空っぽの夜を。
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