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最後の夜

 一週間はすぐに終わってしまった。  ある意味、俺にとってはバカンスのようなものだっただろう。あまり認めたくはないが……傷を癒すための。でも自分自身で回復を確かに感じていた。  生活をすべて捨ててしまえるほど大胆でもない。それに命を絶つ気もない。  だったらなにかしらで立ち直らなければいけないわけで。  そろそろ戻らないといけない。  大学に、バイトに、社会に。  俺の日常に。  今夜の客で最後かな。  ちょっと惜しい気もする。  『バカンス』だとしたら、日常に帰るのは少々億劫。  だったら最後の夜もちゃんと楽しまないとな。  そう思って、スマホからSNSでいつもどおり、客を引っ掛けた。  適当に選んだ相手のはずだった。  でも俺の意識の中にはなにか、そう、ああ、これも情けない。未練と呼べるものがあったのだと思う。  『ヤツ』を想起させる特徴の奴を選んでしまったのは。  そしてそれは、想起なんてものではまったくなかったのだ。

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