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本当の夜
「馬鹿正直なのは、お前もなんじゃないの」
聞き終わったあと、玲也が言ったのはそんなことだった。
俺は勿論、憤慨する。コイツと一緒にされてしまってはたまらない。
「んなわけがあるか!」
「確かに色々歪んでたのはわかった。お前、自分の気持ちを隠すところあるし」
噛みついたけれど封じられた。俺がコイツのことを知っているだけ、俺のことも知られているのだ。ある意味当然なことを玲也は言った。
「でもそれって、俺が女の子を好きだと思ってたからなんだろ。そんで、そういう俺を尊重してくれたんだろ」
「……そんな高尚なもんじゃない」
言ったけれど、玲也はちょっと笑った。
俺は、むっとする。上に立たれるのは好かない。
「少なくとも俺はそう思うよ。それはお前の歪んでて、そんで弱いところでもあるのかもしれないけど」
ちょっと言葉を切った。けれど今度はさっきとは少し違ったらしい。
すぐに続けてくれたから。
「俺はそういう璃緒が好きだ」
ふわっと笑って言われた言葉。今度は躊躇いも羞恥もなかった。
くそ、と思ったが、俺は『馬鹿正直』だった。俺の胸はあたたかくを通り越して熱くなってしまったし、きっと顔も赤くしてしまっただろうから。
「……そう言ってくれんなら、ちゃんとしてくれよ」
照れ隠しかもしれないけれど、俺の本心であり、希望。
ちょっと遠回しになってしまったのは、恥ずかしいからだ。やはりガラにもなく。
「ちゃんとする? いや、好きだって言っ……」
想像した通り、玲也はきょとんとして聞き返してきたけれど、途中で遮った。
「そうじゃねぇよ。そういうことシてくれってことだよ!」
「は? ……えっと、そういう?」
もう一度言って、やっと理解してくれたらしい。玲也の顔も、ぱっと赤くなった。
俺と玲也はどこか似たようなところがあるのだろうか。表面的にはまるで違っても。
好きなヤツに対してぐるぐるしてしまって、弱さが前に出てしまうときがあるところとか。
肝心なところは照れてしまうとか。そういう。
「そうだよ。あれだけが思い出なんて嫌だ。ちゃんとしてくれ」
「い、今か?」
ここも俺と少し似ている。逃げのようなことを言われた。
けれど今度、今は俺が逃げるつもりがない。
「今だよ。そういうつもりでここにきたんじゃないのか」
ホテルなんてきておいて、今さらなにを。
「いや、俺は璃緒に気持ちを伝えるつもりで」
「じゃあもっと伝えてくれよ」
要求の言葉はねだるような声になった。
「まだ、足りないから」
するっと玲也の首に腕を回す。
気持ちを聞かせてもらって安心したからか、俺本来の大胆さが少し戻ってきてくれたらしい。
玲也の黒い目をじっと見つめた。黒い瞳は戸惑ってはいたけれど、でももう力はゆるんでいて穏やかだった。
それに安心して、俺は、すっと顔を近付けた。
自分のくちびるを押し付ける。ずっと触れたかったくちびるに。
味わったそれは女の子と違って薄くて、でもしっかりとしたあたたかさを持っていた。
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