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璃緒の夜
今度のはじまりはちゃんと恋人同士のものだった。
そうだ、俺はコイツと恋人同士、になれたのだ。セックスをキスではじめる関係だ。
勿論、客に散々与えてきたキスじゃない。俺の気持ちを伝えたいと心から望んで伝えられる、とても幸せであたたかいものだ。
「ん……、ふ」
玲也は勿論、キスは初めてだろう。俺がさっき仕掛けたものが。俺のリードするキスに応える仕草はぎこちなかった。
コイツのセックスもキスも、初めては俺がもらってしまった。それが嬉しくて誇らしくて、でもちょっとうしろめたい。
俺は初めてなんてものは、ほかのやつに全部やってしまったから。
でも別に、初めてじゃないから愛がないなんて思わない。
むしろ愛は『最後のヤツ』にやりたいものだと、俺は思う。
愛だなんて恥ずかしげもなく言うことはできないけれど。
でも伝わるだろう? 今なら、このくちびるから。
「は……っ、なぁ、」
俺は顔を離して玲也を見つめる。既に瞳がとろりととけてしまっている自覚はあった。
「舌、入れて」
「し、舌?」
玲也が顔を赤くする。ディープキスだって初めてだろう。やっぱり俺の心は喜んでしまう事実だ。
「そう。深いやつ。ヘタでいいから」
「うるさいな」
赤くなった顔をちょっと歪めて。でも俺の頬を包んで、もう一度くちびるを押し付けてくれた。俺も玲也に身を寄せる。シャツの胸元を掴んで。
「ん」
うっすらくちびるを開いて促す。おそるおそる、という様子で舌が入ってきた。
それだけで俺の背筋がぞくぞくと震える。あたたかくて厚い舌が、俺のくちのなかに。
舌を絡めるどころではなかった。つつくような、躊躇いがちな、かわいすぎるディープキス。
そんな下手なキスが俺を幸せにしてくれる。
嬉しさそのままに、俺から舌を差し出して絡めていた。
玲也のほうが「んん!」とくぐもった声を出した。そんな反応がかわいらしい。でも慣れない玲也は息苦しいだろうから、数秒で解放してやった。
ぷは、と息をついた玲也は思った通り、がつがつと空気を吸い込む。
俺はつい、くすっと笑ってしまった。揶揄するつもりはなかったけれど。
「鼻で息、すんだよ」
「鼻?」
「そう」
言って、そっとまた胸に擦り寄る。
「うまくなってくれよな。俺で」
そのあとはちゃんと押し倒してくれた。やっぱり顔は赤かったし、緊張している面持ちではあったけれど。
今回はちゃんと顔を見つめ合ってできる。
それは世界で一番幸せなことだと思った。
一応、二度目なのだ。玲也の手つきも少しは落ち着いていた。硬い眼で俺を見るのはあまり変わっていなかったけれど。
いや、変わったか。硬い眼だけど、その中にはしっかり安堵があるから。
顔を近付けてくれるので、俺はやっぱりほっとした。押し倒されていきなり触られるより、こっちのほうがいい。
玲也の背中に腕を回してねだる。もう一度キスがはじまった。今度はつつくような。
玲也が『鼻で息をする』を実践しようと頑張っているのが伝わってきた。かわいいと思って、俺の胸はいっぱいになる。
それでもたった数度でうまくなるはずがない。何回かくちびるを合わせただけで顔を上げられてしまって、目が合った。
ふっと視線を緩めると、あちらの目も緩む。
たったそれだけなのに、あたたかくて、そして熱くてならない。
玲也の手が俺のカーディガンにかかった。ぷちぷちとボタンを外される。
こちらも少し慣れたのだろう。躊躇うことも、つっかかることもあまりなかった。前を開けられて、胸に触れられる。
「やっぱ、綺麗だな」
また褒められた。逃亡生活のために、肌の手入れはしばらくできていないのにそう言ってくれるのだ。
お前の気持ち補正がかかってるんだろうよ。
思ったけれど、言いやしなかった。
「そうだろ」
そんなことを言っておく。
「なんだよそれ、……あ、いや。お前らしいや」
戯れの会話を交わしながらゆっくりと胸をさすられて……やがてくちびるで触れられた。ちゅ、ちゅっと肌を舌が這う。濡れているそれを心地よく感じてしまった。
もっと触って。
ねだるように玲也の頭を抱えて引き寄せる。甘い声が勝手に出た。
「ふぁ……っ、あ、んっ……」
ちゅう、と胸の先に食いつかれて鳴いてしまう。きゅっと胸が締め付けられる感覚がするのだ。
下も反応してきた。ズボンを窮屈にしつつある。
玲也がふと、手を伸ばしてそこに触れた。
「ん……勃ってる」
すりすり撫でられればたまらないではないか。俺のものは一気に反応した。
ズボンに圧迫されて苦しい。それをわかっているように玲也は俺のベルトに手をかけて、これはまだ慣れないのだろう、苦戦する様子を見せつつほどいていく。
確かに誰かのズボンを脱がせるというのはちょっと難しい。その不器用な手つきも愛しくて、俺は腰を浮かせて脱がしてもらうのを協力した。
「ふ……っ、ん、う、ぁ……っ、い……」
取り出されたものを優しく扱かれる。甘く鳴きながらも、今度は無意味に過度に反応してしまうことはなかった。
必要ないから。
愛されることを実感しながら、ゆっくり快感を感じられるから。
それは気持ちを伝えあった安心感だ。
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