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第5話
廊下まで連れてこられてほんとに大事な話ってなんだよこいつ。
兼本が真剣に俺の顔を見つめる。
「なんだよ」
「あのさ、」
と思ったら何かを言いづらそうにモジモジしている。
この展開ってなんかあの、見たことある気がするのは気のせいだろうか。
あれだろ、俺のことが好き、とか。
いやでもこいつに限って多分そんなことはないから、好きなやつがいて、、ってまあこの展開でいけば、しかも同性、という。
いやだいやだ、面倒事には巻き込まれたくない主義なんだ、友達の恋愛を手伝うのは楽しそうだがBL展開の餌食とか出汁にはされたくないから、NOと言おう。それだけで十分だ。
「俺もBL好きなんだ!!!」
「だめだ」
「「え?」」
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そして今に至る。
「だから俺もそうだからよろしくしてくれよ......頼む!!!」
制服のジャケットの裾を掴まれる。
「俺、も!!!ってなんだよ!別に俺はBLなんて好きじゃねぇよ!!」
「じゃあなんで、学校に持ってきてたんだよ!」
「それは...」
姉に脅されてBL漫画読んでます、なんて言えるか。
「ずっと悩みだったんだ、こういうの好きなの周りに絶対いなかったし打ち明けられないだろ?男がBL好きなんて...」
必死に訴えてくる兼本を見ると弱った。自分をさらけ出してしまい悲痛な体験をするのは、玄関お漏らしの時に既に味わっている。
傷つけずに好きでは無いことをどういう風に上手く伝えられるだろうか。
確かにしっかり読んでいるし、単語もバッチリだし今ではそれなりの展開妄想もなんなりと出来てしまう。
兼本は返事を待っているのか、ずっと裾掴んで血眼でお願いお願い呟いてるし。
「ま、まだ俺も入ったばっか、というか姉ちゃんが読んでて......成長段階、というか......だから話はあんま合わないというか.........」
そういうと兼本の表情が一気に暗いものへと変わる。
「そーだよな、......わかってもらえるわけないよな...」
掴んでいた裾を放し、後ろを振り返りとたとたと力なく歩いていく姿は今までで1番可哀想なものだった。
「うそうそうそ!!!!、実は俺BL超大好き!!!ちょっと恥ずかしくて見栄張っただけ!!!本当はすっごい読んでる!あー!兼本と話してぇなぁ!!」
気づいた時には俺が兼本を引き止めていた。
何してんだよ俺。
「ほんとに?...」
「うん!、さっそくオススメのやつ教えて!」
近くのファミレスでBL漫画の話をすることはもう無いだろう、もう本当になくて欲しい。
「これ、知ってる?」
と、スマホの画面を俺に見せてくる。
「あー、それは読んだことある」
兼本が出すものは結構読んでいるものが多かった。
「んー、じゃあそろそろこれの時期かもな...」
これの時期、とはなんだ。
またスマホの画面を見せてくる。
「これすっごい、なんか、やばいんだよ!」
やばいと言われてもわからん。
が、他の表紙とは違い男と男がアレなことをしている空気を感じさせない感じだった。
色使いは奇抜だが、これならいい感じに読めるかもしれない。
「おー、ほんと、じゃあ貸して」
貸してほしいなどとひとつも思ってないのだが、しょうがない、兼本のためだと思って借りよう。
「じゃあ、明日持ってくんね!!!」
兼本と別れた後、疲れがやってきた。
好きでもないものに対して好きなように振る舞うのはこんなに疲れるのか。
しかし好きなものを周りに言えない兼本も随分辛い思いをしたんだと思うとそれも寂しい気がしてくる。
「はぁ、、コンビニ寄ろうかな...」
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