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第6話
コンビニから出て、家へと向かう。
最近自分の身の回りが忙しい気がする。
ずっと退屈なのも面倒臭いが、あまりせかせかするのも息が詰まる。
明日は兼本が漫画を持ってきてくるからそれを読まないといけないし、花仟には漫画を貸さないといけないし、この件に関しては兼本と要相談だし。
「ただいま...」
玄関のドアを開けると、見慣れないスニーカーがあった。
まさか......
そのままリビングへ行くとテーブルに置かれたお茶と椅子にぽつんと座る、静の姿があった。
「那由太...お邪魔してます...」
少し会釈をする静に戸惑う。
他人みたいな態度に少しムカつく、あんまり騒ぐタイプの性格ではないがそれは完全に友達の家族に対する挨拶だろ。
「う、うん、どうしたんだよ」
「母さんが、筍の煮物作りすぎたからついでに那由太と会ってこいって...」
「ふーん」
「そしたら帰ってくるまで待ってていいよって那由太のお姉さんが」
「え!?真子!?」
「うん」
友達の家に泊まりに行くとか言っていたくせに、どういうことだろう。
じゃあ今2階には姉がいるということか。
「おーい!真子!!!」
「何よー、うっさいわねー」
いや、この話は後でしよう。
「那由太...」
椅子から立ち上がり俺を見てくる静。
やっぱり昔、同じような身長でギャハハハと笑っていた時期とは違う。
まあ、5cm位しか差はないだろうが越されている。そんな差はやっぱり静が別人になっているようでソワソワしてしまう。
「なに」
「やっぱり来たら迷惑だったか?」
「そんなことないけど...」
「俺はずっと那由太と話したかったけど避けられてる気がする。なんか理由があるなら話して欲しい」
理由なんてない。
というか、すごく下らない俺のプライドのせいだ。
「別に...俺が子供なだけ...」
「ん?どういうことだ?」
「夜、ご飯食べてけば」
「いいのか?、それこそ迷惑じゃ...」
「いきなり押しかけといて今更遠慮すんのかよ、連絡しとけば大丈夫だろ」
久しぶりに静がご飯食べてけば母さんたちも喜ぶと思うし。
わかった、と静は黙ったと思えばまた口を開く。
「那由太の部屋が見たい」
「は?なんで」
「久しぶりにゲームとかしたい」
「時間ないし、部屋見るだけならいいけど」
それは俺もしたいが、今ではあまりやらないし山積みのところに埋もれていると想定できる。そこから引っ張り出すことを考えると億劫になる。
とりあえず静を部屋に招き入れる。
「そんなに散らかってないな」
「どこの近所のおばさんだよ」
入るなり散らかり具合に目をつけるところ、お前は俺の母ちゃんなのか?そうなのか?
「ゲーム探すから適当に座ってて」
山積みのところにはなく、そうすると棚の中の箱だろうか。
棚の戸を開け箱を探す、薄い青色をしたプラスチック製の箱を持ち上げる。思いの外重量があるので、多分当たりだろう。
「那由太ってこういうの読むのか?」
静に声をかけられ、後ろを向くと机の上に置いておいたBL漫画をパラパラと捲っている。
「おいおいおいおいおいおい」
箱を下に置き、凄まじい速さで静に突進し取り返そうとすると上手く躱される。
バランスを崩し、その反射で静の服の肩裾を掴み床に2人諸共倒れる。
「ごめん......」
一応受け身を取ったが、その分肘が痛い。
「大丈夫だけど」
と言い正面を見ると目の前に静の顔がある。
睫毛は長いし、染めてもいない黒髪はさらりとしていて。
何故か目を逸らさない静はまっすぐに俺を見ていて。
「近いわ!!!」
既視感がある。
これBLでよくあるやつじゃん。
やばいやばい、何も無いと思うが何かあったらやばい。
「ゲーム見つかったからやろうぜ」
戸惑いを隠すため、静を押し返し箱から取り出そうと立ち上がると、腕を掴まれる。
いきなりの事で頭が驚いているのか、抵抗することも無くベッドに易々と押し倒された。
「なにしてんだよ!!」
「那由太ってこういうのが好きなのか?」
片手にはBL漫画。
「え、いや、あの」
「気づけなくてごめん、一応どんなものが好きだろうとかは知ってるつもりだったけどやっぱり話さないと分からないな」
いや、違う、断じて。
「あの、それはともかく押し倒すのをやめてもらえないですか」
「だめだ」
なんて?そこは、「あっ、ごめん、俺どうかしてた...」ってなるやつだろ。
なにがだめだ、だよ。
怖い、怖いから、こんな所真子に見られたら一生からかわれ続ける。
「いいから、ちょっと退けってゲームの時間なくなるだろ」
「だめだ、ゲームする時間ないって言ったろ、それな今離したら那由太、すぐ誤魔化すから」
「え、何を??」
ちょっと俺の知能レベルが下がっているのか、こいつの脈絡がクソなのかわからなくなってきた。
「男...が、好きだなんて、なんで黙ってたんだ」
「え?????」
多大なる勘違いをされている、申し訳ないが全く違う。
「ごめん、俺はその気持ちは理解は出来ないが受け入れることは出来るから、困ったことがあったら言って欲しい」
「いや、違うんだけど好きじゃないし」
「え、俺のこと好きじゃないのか?」
眉間に皺を寄せる静。
その疑問は自惚れとか色々混じっているが、恥ずかしくないのかこいつ。
なんでこんなに勘違い野郎なんだ。
「は?どうしたらそうなるんだよ」
そういえば中学の時、クラスで1番可愛かった安垣さんが川原君はかっこいいけど勘違いが凄いし鈍感だからもういいや、と女子トイレから出てきた所で言っていたのを思い出す。
まあ呆れるほどに鈍いのは本当だ。
「だってこれ」
と見せてきたのは俺が1番最初に目にした、幼馴染BLのやつだった。
確かに俺たちの関係と似ているが、そこで好きなんだろう、とはならんだろ。
頭のネジを落っことして来たこいつならその解釈になるのかもしれない。
「いや、そもそも俺、男は恋愛対象じゃないし、それも好きで読んでるわけじゃないから、お前のことも好きじゃない」
「俺のこと好きじゃない.........のか?」
なんでそうなる、なんで話が通じない。
そして、なんでそんなしょんぼりしてんだよ。
「ねぇ!2人ともー!!」
階段から真子の声がする。
「やば、真子来てるからっ」
思いっきり跳ね除け顔面パンチを食らわす。
「いっ............」
バン!と乱暴にドアが開けられ、その光景を目にした真子が不思議そうな顔をする。
「あんた達...何してんの」
「ちょっ、ちょっと、静が馬鹿なこと言うから目を覚まさせてやっただけ!!うん、、そう!」
「てかこんな時間だけど大丈夫なの?」
「飯食ってくんだよな!静?」
「別に......お母さん怒んないと思うけど、連絡したの?」
「そ、そうだよ静、連絡、連絡、!!」
______________________________
家は隣同士だがなんとなく静の家まで2人で歩きながら話す。
「ごめん」
「いや大丈夫」
結局俺が連絡をし忘れたので静は帰ることになった。
正直さっきのこともあったし、一緒に夕食を食べるのは気まずいので丁度いいと思ってしまう。
「今度また来てもいいか」
「お前はちょっと会わないぐらいで他人みたいになるのかよ」
いつまで経っても変に律儀な態度には毎回笑ってしまう。
はは、と笑うと静がじっとこちらを見てきてスっと笑いが収まる。
「...?」
「笑った顔久しぶりに見るな」
と、立ち止まり穏やかに眉を下げて緩やかに口角を上げるその表情はいつまで経っても変わらないものだった。
いくら背が伸びたって、声が低くなったって、その笑う表情だけは色褪せないものがある。
「お前もな」
じゃあな、と家の前で手を振ると何を思ったのかを両手で掴まれる。
「うぉっ、え、なに!?」
「......」
顔を下に落とし黙り込む静。
「へ?なに?」
あまりにも微動だにしないので頭をペちペちと軽く叩いてみる。
「おーい」
「.........なんか」
「え?」
がっちりと目が合ってしまう。
顔はほのかに赤くて、なんだかこっちまで恥ずかしくなってしまいそうになる。
ワイシャツ越しに掴まれている肩からじんわりと熱が伝わってきて、限界を感じて顔を逸らす。
「那由太...」
名前を呼ばれまた静の方に顔を向けるが目を合わせないまま戸惑う。
しばらく何も言わないので目を向けると、寂しそうで熱の篭った何か言いたげな目をしていた。
「急にどうしたんだよ.........」
そう言うと肩を掴んでいた手の力がするりと抜け落ちる。
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