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 桜の木は広場を囲うようにして等間隔で埋められている。  レジャーシートやテントでいっぱいになっている広場の隅の縁石に腰掛けた俺たちは、空を仰いで青と白のコントラストに見惚れていた。  堤先生はスマホで写真撮影を始めたので、俺も同じように写真を撮った。  花の向こう側に、吸い込まれるような青を映すのを忘れずに。 「綺麗だねぇ」 「本当に。こうやって桜の木を間近で見たのって、久しぶりな気がします」 「うん、桜もそうなんだけど、大稀くんが撮った写真が綺麗だなって」  気付けば堤先生が俺のスマホを覗き込んでいた。  俺の体の右側が先生の体に触れている。  近すぎる……  写真を褒められたことにも照れてしまって、俺は誤魔化すように笑うしかなかった。 「先生って、ロマンチストですよね」 「え、そう? そんなことないと思うけどなぁ」 「今のって、星を見上げて『綺麗だね、でも隣にいる君の方が眩しくて綺麗だよ』って言う彼氏と一緒ですよ」 「えぇっ、そんなつもりじゃなかったんだけど! 大稀くん、写真撮るのすごく上手ですよ。斜光を上手に活用できてますし……」  堤先生も気恥ずかしくなったのか、誤魔化すようにサキイカとチータラの袋を開けて俺のほうに差し出してきた。  サキイカを一つとって、さっき先生がそこの自販機で奢ってくれたカルピスソーダの蓋を開けた。  穏やかな陽気で時折風が頬をかすめて気持ちいい。たまに日差しが強くて肌が焼けそうだけど。  お花見する目的だって言ってくれたら、俺だって家からテントを持ってきてあげたのに、と色とりどりのテントを見て思った。  そしたらその中で寝転がって一緒に昼寝とか……いやいや、それだとまた先生の顔が近くなるからよそう。 「先生は、大学の人たちとはお花見したんですか」 「来週する予定だよ。河川敷で、バーベキューもやるんだ。良かったら来る?」 「えっ」 「外国人含めた男女十五人くらいでやるんだけど、みんな気さくでいい奴だよ。急に行っても、大丈夫だって言ってくれる人たちだし」 「いえ、勉強があるので」  本当のことなので断ると、またわざとらしく泣き真似をされたが無視をする。  大学生の集まりに高校生の俺が行ったってアウェイだし、そんな中に一人で飛び込んでいける勇気はない。  堤先生っていい大学生のお手本って感じだ。この前も、仲間と一緒に登山しに行ったって聞いたし。バイトも勉強もしっかりやって、人との繋がりも大事にしている。

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