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……すごい、先生。
俺はそればっかり頭で繰り返して、目を丸くしていた。
何がすごいって、それはもういろんな意味で。
声色はコントラバスやチェロみたいに心地良いのに、歌となると酷い。
さっき先生が言っていたのは謙遜とかじゃなく、事実だったみたいだ。
堤先生は、めちゃくちゃに音痴だった。
だけど本人は恥じる素振りは一切見せず、堂々と歌い上げている。
「ああー、すっきりした。大稀くんも早く次入れなよ。楽しい時間なんてあっという間に過ぎちゃうよ」
少し前に流行ったラブソングを歌い終えた先生は、満足そうにマイクを置いてハハハと笑っていた。
「先生って、やっぱりちょっと変わってる……」
「えっ? やっぱりって、いつから僕の事変わってるって思ってたの?!」
だって普通だったら、自分の恥ずかしい部分は隠しておきたくなるもんじゃないのか。
だがこのあっけらかんとした性格だからこそ、堤先生は人気があるのかもしれない。
「いえ、なんだか先生って、人生を謳歌してるって感じですよね。毎日充実してて楽しそう」
「えっ、何だか嫌味に聞こえるのは気のせいでしょうか? ちなみに僕が音痴だって知って幻滅した?」
「幻滅だなんてそんな。ますます好きになりましたよ」
自然と口から出てきた言葉に自分で照れてしまった。
好き、と言っただけで、胸の中がむずむずした。
そうだ。俺は先生が好きだ。けどそれは一人の先生としてって意味だ。
……そうだよな?
「でしょ? 大稀くんは優しいし、僕が変な姿を見せても笑わないだろうなって思ったから。僕の周りはみんなそんな人ばかりだから、すごく楽しいんだ。本当に、いい人たちに恵まれてるんだなって思うよ」
堤先生のそういう柔軟な考え方も好きだ。
俺が中二の頃、世間は全て最低最悪で、周りの奴らもクソばっかりだって本気で思い込んでた。でもそれは違った。俺が勝手に、周りを酷い奴だって馬鹿にしてただけだったんだ。
俺も先生に、心を開いてみようって思った。
ずっと歌ってみたいと思っていた、好きなバンドのミクスチャーロックの曲を入れてみた。その曲名は偶然にも「ひなた」。
何度もつっかえたり音を外したりしたけど、不思議と全然恥ずかしくない。
歌い終えると、堤先生は拍手してくれた。
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