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   元旦って、毎年気持ちよく晴れるよなぁ。  参拝の列に並びながら、俺は空を仰いだ。  二十分くらい待って、ようやく順番が回ってきた俺と陽向先生は、賽銭箱にお金を入れ、神様に手を合わせた。  無事に合格できますように。  あとはそうだな……陽向先生がずっと、笑顔でいてくれますように。  人混みをかきわけ、なんとか合格祈願のお守りも無事購入し、その場を後にした。  そのまま帰るのもなぁと思っていたところで、陽向先生が少し休もうと近くの喫茶店に誘ってくれた。  少しくらいは、勉強もひと休み。  店の中は結構混んでいて、また二十分くらい待ったのちに席に案内された。  うっすらと照らす間接照明の下、茶色の皮張りのソファーに体を沈み込ませる。  こうして先生の真正面に座ると、目のやり場に困る。気を抜けばぼーっと見惚れてしまいそう。なるべく見つめすぎないようにしないと。    陽向先生は紅茶が好きなので、アールグレイティーを頼んだ。  俺はミルクたっぷりのアイスカフェオレ。ちょっと、子供っぽかったかな。  グラスの中の氷をストローで突いて考えていたら、先生はテーブルの上にチェック柄の掌サイズの封筒を徐に置いた。 「これ、良かったら貰って」 「えっ、これ……っ」  嘘、もしやお年玉?  いやいや、いくら教え子とはいえ、さすがにそんなのは貰えないだろう!  恐る恐る封筒を手に取り、中を覗いてみる。  しかしお札かと思いきや、違った。  さっき俺が神社で購入したものと同じサイズの、お守りだった。  周りは赤いフェルト生地で作られていて、しっかりと厚みがあった。上の部分も白い紐が通っていて、リボン結びにしてある。  もしかしてこれって、先生の手作り? 「ちょっと曲がっちゃてるんだけどね。裁縫なんて久しぶりだったから」 「いえ、すごくちゃんとしてますよ! わざわざ作ってくれたんですか? 俺のために」 「僕にはこれくらいしか出来ないから」  ――陽向先生、大好きです。  あ、危ない。うっかり口からポロッと出そうになってしまった。  確かにちょっと縫い目は荒い気もするが、それよりも俺のためにこうして作ってくれたっていう事実だけで、嬉しすぎて飯三杯はいける。  何度もお礼を言いながら、そのお守りに隅々まで目を凝らす。  すると、中に入った厚紙の間に四つ折りにされた紙が一枚挟まれているのに気がついた。 「何か入ってる」 「うん、それは、大稀くんへの手紙」 「手紙? 開けていいですか」 「ううん、お守りなんだから、中見たらダメだよ」 「えっ! 先生って何でそんなに気になっちゃう事をたまに仕掛けてくるんですか」  渓谷で何を話したのかっていう疑問も、まだ解消されていないっていうのに。  見せてもらえるように何度か食い下がっても、陽向先生は「ダメ」の一点張りだったので、もしやと思い訊いてみた。 「これも、合格したら見てもいいってやつですか」 「正解っ」  やっぱり。  そんなの、何が何でも合格しなくちゃならないじゃないか。  いや、それは確かにその通りなんだけど。  先生と同じ大学に、絶対通いたい。  合格したら、自分の思いを伝えてみたい。それは確固たる信念だ。 「分かりました。じゃあ受かったら速攻で見ますから。四年前、俺が先生に何て言ったのかも忘れずに教えてくださいよね」 「おぉ、頼もしいね大稀くん。直前で弱気になって本番で力が発揮できない人もたまにいるけど、その姿を見たら安心した」 「だってめちゃくちゃ気になるし。絶対受かるように頑張ります」 「うん」  陽向先生が家庭教師として家に来始めた頃は、不安で弱気になる日が多かった。  でもずっと先生が隣にいてくれたから、俺は少しだけ強くなったんだ。  駅で先生と別れて自宅に戻ってきた俺は、机の上にお守りを置いてじっと見つめた。  というかこれ、今こっそり中身を見たとしてもバレないじゃん。  手に取って、リボン結びにしてある紐の先を摘んでみたけど……  それを引っ張ることはしなかった。  俺はその表面を指先でなぞって、見えるところに飾った。  先生との約束だ。  ちゃんと合格した後で、胸を張って見る事にした。

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