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早くも夏休みに突入した。
陽向が大学の友人たちと森林公園へバーベキューをしに行くというので、それに同行させてもらうことになった。
ちょっと不安だったが、実際に会ってみたらいい人たちばかりで安心した。
車を二台出してもらい、相乗りで目的地に向かう。
俺と陽向は、久遠 さんという男の人が運転する車に乗せてもらった。
俺は助手席、後ろには陽向を挟んで男の人と女の人が座っている。
ミラーで何度も、陽向のことを確認してしまった。
女の人は明るくて面白くて、常に喋り続ける芸人みたいな人だった。陽向は話を聞きながらしきりに「馬鹿だなぁ」とか言いながら笑っていた。俺もそれに合わせて笑い声をあげた。
陽向が友達と会話してるところをちゃんと見たのって初めてかもしれない。
相手に隙を見せているような、ありのままを曝け出しているような開放的な気持ちがこちらにまで伝わってくる。
新たな一面を見れて嬉しいような、なぜかモヤモヤするような。
途中から窓の外の景色に視線を移していたら、久遠さんにいろいろと訊かれた。
どこに住んでいるのとか、外国語は何を専攻してるのとか。
着くまでの間、俺のことを気遣ってくれているようだった。
着いてから、陽向の隣をべったり歩くのも憚られたので久遠さんの隣を歩いた。
陽向は俺たちの後ろを歩いている。
久遠さんとアルバイトの話になり、自分はやっていないと答えると、久遠さんは以前、塾講師のアルバイトをしていたのだと教えてくれた。
「もともと自分が通ってた塾でね。教えてたのは中学生で、楽しかったけど結構大変だったよ。話聞かずにこそこそしゃべってる女子グループとかいて、何のために来てるのかなって思ったり」
「もしかして、親に言われて仕方なく、とかですかね」
「そうだろうね。やらされてるような子は長くは続かなくて、途中で辞めたりしてたよ。俺も家庭教師のアルバイトやってみたかったな。陽向って教えるの上手だったでしょう?」
「はい、本当に分かりやすくて」
「陽向って一見おとなしそうに見えて、話してみると結構面白いんだよな。超音痴だし」
「あっ、知ってます」
それからしばらく、陽向の話で盛り上がった。
自分の好きな人のことを誰かと話すのって、こんなに楽しいんだと思って心が弾んだ。
ずっと陽向の話を聞いていたかったけど、目的地に着いてしまった。
荷物を置いて準備をしていると、陽向が隣にやってきた。
「何話してたの」
陽向はなんだか不貞腐れている。
たぶん久遠さんと盛り上がっていたのが気になったんだろう。
自分だって他の友達と盛り上がっていたくせに、自分のことは棚にあげる陽向にちょっと意地悪したくなってしまった。
「陽向には内緒だよ」
「えっ」
「久遠さんと俺だけの、秘密」
「そんなぁ」
思いの外ショックを受けているような表情の陽向を見て、悪いとは思いながらも笑いがこみ上げる。
嘘だよ、と言いかけた時に、久遠さんに呼ばれてしまったのでその場を離れた。
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