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バーベキューに酒はつき物。
俺はもちろん飲まないけど、陽向は缶ビールを二缶くらい空けたようだ。少し赤い顔をさせている。
「陽向、顔赤いよ」
「そう? ちょっといい気分かも」
会話が出来たのはそれだけで、陽向は隣にいる悪酔いした男友達に絡まれていて大変そうだった。
俺は隅っこに座っているし、目の前に座る人も隣の人と盛り上がっていたのでしばらく大人しくしていたら、肩を叩かれた。
「ちょっと散歩しない?」
「久遠さん」
久遠さんは笑って、木材のアスレチックの遊具の方を見た。
陽向は真逆を向いていて、こっちに気づいていない。
散歩くらいだったら、別にいいよな。
俺は頷いて、久遠さんの後をついていった。
「久遠さんは飲んでないんですか」
「だってほら、俺運転手だから」
「あっそうでした」
ボケたつもりじゃなく、完全に忘れていたので恥ずかしくなった。
唇を噛んでいると、久遠さんはクスクスと笑った。
「大稀くんって、そんな顔もするんだね。朝、君を見た時はクールな子なのかなぁなんて思ってたんだけど」
「あ、俺、ちょっと人見知りなところもあるんですけど、先輩の中に混じるのって初めてで、それで余計に緊張してて」
「あぁそっか。でもみんな、気さくな奴だから仲良くしてやってね。陽向とは前から仲が良かったの? タメ口きいてるみたいだけど」
「タメ口は最近なんですけど、陽向が先生だった時からわりと仲は良くて……」
「へぇそうなんだ。じゃあ、ここ座る?」
そう言って切り株の椅子に斜めに向かい合うように座った。
久遠さんは持っていた缶ジュースをくれたので、プルを起こして飲んでみたら甘かった。桃の芳醇な香りがした。
久遠さんはやっぱり俺を気遣うように、今までのバイト経歴、今勉強していることを話してくれた。同じ人間科学部で、前期に同じ授業を取っていたことも分かった。
「じゃあもしかしたら、教室の中ですれ違ってたかもしれないですね」
「そういえば俺、思い出したかも」
「え?」
「大稀くんのこと、教室の一番後ろの席で見たかもしれない。金髪の男の子と一緒にいなかった?」
「あ、いました。きっとそれ俺です」
「あぁやっぱり。綺麗な顔の男の子だなぁって思った記憶がある」
「そ、そんな風に褒めてもらっても、何も出ないですよ」
「いやいや、本当の話。よく言われない?」
自惚れてはいないが、中学生くらいからよく言われるようになった。
特に陽向には、渓谷で会ったときから美人な子だと思っていたと言われたし、今でもたまに言われる。
俺は曖昧に首を捻ると、久遠さんは「謙遜しないで」と笑った。
「陽向とカラオケ行ったってことは、歌うのは好きなの?」
「あぁ、はい、そんなに上手じゃないんですけど」
「良かったら今度、一緒に行こうよ」
「あ……一緒にって、今日のメンバーでですか?」
「それでもいいし、俺と二人でも。あ、二人は気まずい?」
「いえそんな。大丈夫です」
良かった、と安堵した久遠さんを見て、正直焦ってしまった。
咄嗟に言ってしまったが、二人きりではまずいだろう。
でもなんて言えばいい? 恋人がよく思わないのでと言えるのは異性の場合だ。もしそう言えば、男同士なのにどうして行けないのかと疑問をもたれるだろう。
「じゃあさ、連絡先交換しようよ」
久遠さんはポケットからスマホを取り出したので、俺も倣ってスマホを取り出す。
もし久遠さんに、二人で行こうと言われたらどうしよう。
それについて陽向はどう思うんだろうか。事前に許可は? そもそも連絡先を交換しても大丈夫?
いろんな感情が押し寄せるが、はっきり断ることも出来ない。
とりあえずここは、交換しておくのがマナーだろう。もし誘われたとしたら、その時に考えたらいい。
「大稀くん」
スマホを持ったまま振り返ると、陽向が立っていた。
酔っているせいもあるのか、なんだか虚な目でこっちを見るから怖くなってしまった。
「陽向、どうした?」
状況を把握できていない久遠さんは、明るい声を出す。
陽向は俺のすぐ横に立ち、はっきりと告げた。
「久遠。僕、大稀くんと付き合ってるんだ。だから僕の恋人に、ちょっかい出さないでよね」
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