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「えっ、陽向、酔ってるんでしょ」  咄嗟に俺はそう口に出していた。  いきなり何を言ってるんだ。しょうがないなぁというような顔をわざと作り、久遠さんの前で演技をした。  久遠さんは俺と陽向を交互に見る。冗談か本気か、見極めるように。 「酔ってない。いなくなったと思ったら二人でいるのが見えたから来たんです」  陽向は同じテンションで久遠さんに言う。  どうやら隠すことはしないらしい。なんだか浮気現場をおさえられたような気分で、冷や汗が出た。 「そう。やっぱりな」  久遠さんの言葉に俺は目を丸くした。  やっぱりって、俺たちがそういう関係だって勘付いていたの? 「醸し出す空気が周りと違う気がしてね。大稀くんも、車の中で陽向のことを何度も気にしてたし」  ミラー越しに見てたのがバレてたのか。恥ずかしくなって何も言えなくなった。  陽向はムッとしながら久遠さんの前に立つと、久遠さんも椅子から立ち上がる。二人は同じくらいの上背なので、同じ目線で見つめ合う。どちらも一歩も引かないような気迫でハラハラする。 「そうかもって思ってたんならどうして、大稀くんをこうやって呼び出したの」 「悪かったな。一人でいたからつい。でも陽向、大稀くんをちゃんと見てないとダメじゃないか」 「そ、それは悪かったよ」 「横取りしようだなんて思ってないから安心しろよ。見てろっていうのは、大稀くんの気持ちもだよ」 「気持ちって?」 「陽向の過去が気になってたみたいだから教えちゃったけど、ちょっと不安に感じてるみたいだよ、大稀くん」  二人にちらっと見られて、慌てて目を逸らす。  久遠さん〜、それは言わないで欲しかった。  陽向はこちらにやってきて、俺の頭に手を置いた。 「久遠に言われなくとも、ちゃんと見ます。大稀くんに変なことしたら絶対にダメだからね」  久遠さんは「はいはい」と笑った。  二人はそれっきり、さっきのことを蒸し返すようなことはせずに普通の会話をしていたのでホッとした。  その後バーベキュー会場に戻り、残りの時間も楽しんで、夕方に帰ることになった。  今度は久遠さんの助手席ではなく、陽向と後ろのシートに並んで座ることになった。  だけど陽向と何を話したらいいのか分からなかった俺は、窓に頭を付けて眠ったフリをした。そうしたら本当に眠っていたようで、目が覚めた時にはすでに陽向の自宅近くの道を走っていた。 「あれ? ここ……」  声を出すと、陽向は俺の方を向いた。 「僕の家に行くからね。いいね」  もう決定事項だという言い方にドキッとした。  同乗していた他の二人はすでにいなかったので、途中で降りたのだろう。  陽向の家の前で止めてもらい、荷物を降ろす。久遠さんにも手伝ってもらい、運転もしてもらったので改めて礼を言った。 「二人きりじゃなかったら、大稀くんのこと遊びに誘ってもいい?」  久遠さんは俺にじゃなくて、陽向に向かって尋ねている。  陽向はしばらく逡巡した後に、しぶしぶ了承した。 「本当に大稀くんのこと狙ってるわけじゃないよね?」 「ないない。普通に仲良くしたいなって思っただけだよ。心配だったら、陽向も来ればいいよ」 「絶対行きます」  仲がいい……のか?  二人がいつもどのくらいの距離感で接しているのか分からないが、結局笑顔で会話しているのを見ると、気の合う友人同士なんだろうと察する。  久遠さんはまた車に乗り込み、走り去っていった。  あんなことを言っていた割には、結局俺とは連絡先を交換しなかった。真意は謎だが、ただ単に陽向を揶揄うために言ったのかもしれない。  陽向の部屋に上がって、いつもの定位置に座るけど。  隣に座った陽向に、穴が開きそうなほど見つめられているので緊張する。    

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