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「大稀くん」 「はい」 「不安に感じてることって何? 僕の過去の何を訊いたの?」 「……」  勉強を教わっていた頃、俺が間違いを連発しても決して怒らなかったのに、今は責められているようで怖い。 「黙ってたら分からないでしょ。大稀くんはなんとなく言っただけなのかもしれないけど、久遠との秘密だって言われた時、本当に泣きそうになったんだから」  あの時は、単に意地悪で言ったんだ。そんな気持ちにさせるつもりじゃなかった。  元話といえば陽向が悪いんだ。だって俺に全然触れてこないから。 「陽向がっ悪いんじゃん」  感情のコントロールはとっくに出来るようになったと思ってたのに、陽向の前じゃ通用しなかった。  陽向に泣きそうな思いをさせてしまったこと。  俺に魅力がないから、陽向は欲情しないんだということ。  でもそれらは自分に責任があるのに、全部陽向のせいにしたくなっているこの気持ち。  いろんな感情が津波のように押し寄せて、どうしたらいいのか分からなくなった。  はぁっと息を吐き出すと、陽向はぎゅっと抱きしめてくれた。 「ごめんなさい。大稀くんにそんな顔をさせてしまって。ゆっくりでいいので、思ってることを全部吐き出してください」  陽向は鷹揚に、そして優しく俺の頭を撫でてくれた。  陽向の胸に顔を埋めながら、思っていることを少しずつ伝えていった。  この家でキスをした時、はぐらかされて少々辛かったこと。  そういう気配がなくて悩んでいたこと。エッチが目的じゃないけど、自分は陽向と体を繋げたいってずっと思っていたこと。  全部伝えたら、胸の蟠りが取れた気がした。 「ごめんね。本当にごめん。大稀くんに魅力がないからとか、欲情しないからとかじゃ決してないんだ。全く逆だよ」  陽向の言葉に顔を上げると、キスの雨が降ってきた。  額や頬、目蓋の上、鼻先、そして唇へ。  息継ぎするのが困難なくらいで、今までしてきたどんなキスよりも濃厚だった。   「はっ……ひなたっ……」 「本当はずっと、僕もそういうことをしたいって思ってたよ。でもあんまり早いと不誠実なんじゃないかと考えたんだ。それにそういうことをすれば、今以上に頭の中が君で埋め尽くされてしまう」  顔を両手で挟まれながら、そんな告白をうけた俺は熱湯を注がれたみたいに身体中が熱くなる。 「陽向、そんなことを気にして俺に手を出してこなかったの?」 「そんなこと、じゃないよ! それにこの部屋でキスをした時、君はガチガチに体を固めてた。怖がってるのかなと思ったから」 「こ、怖がってなんかないし」  今だってガチガチに固まってるけど、経験がないんだから緊張するに決まっている。  とにかくお互いの誤解は解けたみたいだ。  今度はこっちからキスを仕掛けて、口腔を貪ったあとに告げた。 「俺、陽向だったら大丈夫だよ。しようよ。それでもっと、頭の中俺でいっぱいになればいい」 「君には本当に、敵いませんね」  ギュッと手を取られて、笑った。

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