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第4話
個展が終わってから、まとまった仕事が何件か来たおかげで、充実した日が続いた。
そして、依頼された絵が全部仕上がると、久しぶりに事務所に顔を出してみることにした。
「ちょっと珍しい仕事なんだけど、やってみるよな」
いつもの、有無を言わせないぞという言い方で進藤が聞いてきた。
「何系なんだよ?」
「今日、打ち合わせなんだよ。一緒に来るだろ?」
「それって、一緒に来いって事だろ?」
「その通り」
「了解。で、何時から?」
「相手の都合で、6時から」
今日こそは、何もしないでゆっくりしようと思っていたのに――。
「ジャンルくらい教えてくれよ」
「それは後でのお楽しみ。俺ちょと予定があるから、顔合わせが終わったら、打ち合わせはお前だけでやってもらいたいんだよね」
何が『お楽しみ』だよ――。今日打ち合わせなのに、俺が来なかったらどうするつもりだったんだ?
「はいはい、わかりました。その前に何か少し食ってこうぜ」
「オッケー」
「もちろんお前の奢りだろ?」
俺がそう言ったら、進藤はチッと舌打ちをした。
「何言ってんだよ、今じゃお前の方が金持ちだろうが。俺が奢ってもらいたい位だよ」
そう言われると、奢りる気が失せるかも。
「んー、じゃ、割り勘で」
「ったく、セコイよなぁ。わかったよ、俺が奢ってやるから」
進藤が奢ってくれると言ったから、大体予想はついていたのだけど、案の定連れていかれたのは、高校生がたくさんいるファミレスだった。
食事がすむと、進藤が言っていた新しい仕事の打ち合わせ場所に向った。
「ここなんだけどさ」
AMSレーベル…音楽に疎い俺でも聞いたことがあるんだから、大きなレコード会社に違いない。
受付の女性に案内されて、打ち合わせの部屋に入った。しばらく待っていると、部屋のドアが開き、男性が2人入ってきた。
進藤に続いて俺も立ち上がり、お互いに挨拶を交わした。
「どうもお待たせしました。AMSレーベルの高梨です」
俺の前に立った男性がそう言って軽く会釈をした。
「サーベルの担当の伊東です」
サーベルだって? 俺は隣に居る進藤の顔を見た。でも、進藤は表情も変えず、前にいる2人と挨拶を交わしていた。
「で、こちらが、デザイナーの渡辺鷹人さんです。詳しい依頼内容は直接話して頂いた方がよろしいかと思いまして」
「ありがとうございます。宜しくお願いします」
伊東さんが俺に向かって手を差し出していた。俺は動揺したまま伊東さんと握手をかわした。
「こ、こちらこそ」
きちんと挨拶をしようと思っているのに、言葉が出てこなかった。どうしよう、サーベルってシュンのバンドじゃないか。
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