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第5話
心の中で焦っていると、再びドアがノックされた。開いたドアの方に視線を移すと、そこには、シュンが立っていたのだ。俺は声に出しそうになった言葉を飲み込んだ。
あの頃とあまり変わらないように見える。照れたような笑顔が相変わらず可愛い。もう可愛いとかいう年齢でもないだろうけど。もしかして、少し痩せただろうか? 顔つきがシャープになったように見える。
俺がボーッと見とれていると、シュンが部屋に入って来て、伊東さんの横、つまり俺の正面に立った。
「これがサーベルのボーカルのシュンです」
伊東さんが紹介してくれた。
「どうも初めまして、STUIデザインの進藤です」
「は、初めまして。渡辺です」
俺が名刺を出すと、シュンが頷いてから受け取った。
「宜しくお願いします。サーベルのシュンです」
シュンはそう言うと、俺の事を真っ直ぐ見つめて右手を出した。俺はシュンの視線を避けるようにお辞儀をするフリをした後に握手した。顔が熱い。
「シュンがあなたの個展を見て、とても気に入ったようで。今度のCDのジャケットを、どうしても渡辺さんにお願いしたいと言うので、こうして来て頂いたわけです」
進藤が何も言わなかったのは、何故だろう? もしかしたら、シュンの名前を出したら、俺が断わると思ったのかも知れない。
でも…そう言えば、あいつ、「後でのお楽しみ」とか言ってたような気がする。これがお楽しみだなんて考えるのは、進藤がひねくれている証拠だよ。
「有り難うございます。そんなに気に入っていただけるなんて光栄です」
席に付くとすぐに、高梨さんが全体的なスケジュールの話を始めた。そして、スケジュールの話が終わると、高梨さんが席を立った。
「それでは、私達は別の打ち合わせがあるので、ここで失礼させて頂きます。ジャケットについての詳しい話は2人からありますので。では、進藤さん行きましょうか」
「はい。それでは、私も失礼させて頂きます」
そう言って進藤は高梨さんと一緒に出て行ってしまった。2人は知り合いなんじゃないだろうか? 打ち合わせとか言っていたが、飲みにでも行くんじゃないのか?
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