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第6話
伊東さんを中心に、シュンと俺の3人でジャケット打ち合わせをはじめた。
シュンがアルバムの大体のイメージを話してくれて、サーベルのメンバーから出ている意見も聞いた。だけど、それにとらわれずに俺が自分で考えたものでも良いという話だった。シュン達の話で、すでに2,3考えられたので、2週間後に下書きを描いてくる事になった。
「渡辺さんの下の名前、タクトさんって言うんですね?」
話が終わったので資料を鞄にしまっていると、シュンが突然話し掛けてきた。
「あ、えぇ、まぁ…」
仕事で使っている名前じゃなくて、本当の名前を知っているはずなのに…
「俺の子供の名前に似てるんですよ」
「そうなんですか? お子さんは何ていうお名前ですか?」
本当は知ってる。忘れるわけないじゃないか。
「タカトって言うんです。俺ね、息子がとっても大切なんです」
その時、伊東さんがシュンの顔を少し心配そうに見ている気がした。あまりプライベートな話をしてはダメだよって事なのだろうか?
「タカト君ですか。私の本名と同じですね」
なんだか白々しくて、自分でも嫌になってしまった。表情に出ていないと良いのだけど。
「あぁ、そうなんですね? それはすごい偶然。いい名前ですよね、俺、大好きなんです、この名前の響きが」
シュンの声が甘く聞こえるような気がして、胸が苦しかった。
「お子さんは、お幾つですか?」
話をやめたいのに、俺はそんな風に聞いていた。
「シュン、そういう話は…」
その時、話をさえぎるように伊東さんが口を開きかけたのだけど、シュンが「いいじゃない、こういう場所なら良いでしょ」と言って話を続けた。
「もうすぐ5歳になります。大きくなりました。俺は忙しいから、あまり会えないけど。タカトはどんどん大きくなっていってます。いつか俺の背も抜かすだろうなぁ」
シュンは息子の話をしながら俺を見つめていた。シュンの視線に掴まった俺は、焦って持っていたファイルを床に落としてしまった。滑るように落ちて行ったファイルを、シュンが拾い俺に手渡してくれた。
「いい絵、描いて下さい。楽しみにしてます」
俺、やっと仕事でシュンのいる所に近づけたような気がする。シュンがくれたこのチャンス、どうにか生かせるようにしなくては――。
「ご期待にそえるよう頑張ります」
ファイルを受け取りながら俺は答えた。受け取った手は緊張で微かに震えていた。
打ち合わせが終わった後、俺はタクシーに乗って帰ることにした。電車でもそれほど時間は掛からないのだけど、とにかく早く帰りたかった。
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